骨粗しょう症などで「ビスフォスフォネート(BP)剤」の投与を受けた患者で、抜歯などの歯科治療後にあごの骨が壊死するケースが報告されている。海外では作用の強い注射薬での発生が大半だが、日本では経口薬での割合も高い。服用者が歯科診療を受けられないなどの問題も起きたことから、関係学会は合同で予防や対応に関する見解を作成。BP剤の休薬を検討すべきケースなどを挙げ、医療関係者の連携を訴えている。
▽経口薬が4割
BP剤は、骨を吸収する破骨細胞の働きを阻害。骨粗しょう症には経口剤が、がんによる高カルシウム血症や骨転移には注射薬が広く使われている。顎骨壊死は注射薬の患者で初の症例が2003年に報告された。
顎骨壊死は口内であごの骨が露出したまま治らなかったり、歯周炎や感染が広がって歯が抜けたりする。痛みやうみを伴うこともある。海外での発生頻度は注射薬で0・1~12%、経口薬では最も高い抜歯後のケースで0・09~0・34%と、ほとんどは注射薬だ。
一方、日本口腔外科学会が08年、国内の約250施設に行ったアンケートでは、報告されたBP剤関連とみられる顎骨壊死263例の40%が経口薬関連だった。調査を担当した浦出雅裕・兵庫医大 歯科口腔外科主任教授は「日本では注射薬の認可時期が遅かったことや、日本人の口内の衛生状態がより悪いことなどが考えられるが、経口薬だから大丈夫とは必ずしも言い切れない」と話す。
▽細菌の侵入加速
米田俊之・大阪大歯学部 教授(生化学)によると、顎骨壊死が起きるのはBP剤投与中や投与後に抜歯の処置を受けた人が大半。非常にまれだがインプラント治療後や義歯のずれがある人での報告もある。
こうした歯科治療により、口内に700~800種類あるともいわれる常在菌が体内に侵入しやすくなる。「破骨細胞の働きを阻害するBP剤はこれを加速させたり、新しい血管ができるのを妨げたりして骨の代謝を鈍らせ、骨髄炎の症状が起きると推測される」と、米田教授。
医療現場では「BP剤の有効性を無視し、歯科医が勝手に服用を中止させた」(整形外科医)「医師が処方した薬なのに(顎骨壊死の)治療を引き受けるのはわれわれ」(歯科医)などの声も聞かれ混乱が生じたため、日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症学会、日本口腔外科学会、日本歯周病学会、日本歯科放射線学会は合同で、米田教授を委員長とする検討委員会を組織。
BP剤投与中の患者が抜歯などの治療を受ける際の対応について、科学的根拠には不十分な点もあるとした上で、現時点での見解を作成した。
▽口内清掃が重要
見解は、歯垢や歯石の除去など清掃で口内細菌を減らすことが最も重要だと強調。その上で、BP剤を注射薬で使うがん患者の場合は原則として投与を中断せず、抜歯などの「侵襲的治療」をできるだけ避けるとした。
一方、経口薬の場合は投与期間が3年未満で、ステロイド剤の使用や糖尿病、喫煙などのリスク要因がない人は、休薬しなくてもよい。3年以上、または3年未満でもリスク要因がある人では、主治医と歯科医が骨粗しょう症治療中断のデメリットと歯科治療の必要性をよく相談し、可能なら3カ月程度の休薬が望ましいとした。
浦出教授によると、顎骨壊死の治療は口内清掃や抗菌剤などで進行を遅らせるのが中心。有効な治療法が確立されているとはいえず、予防が何より大事。米田教授も「必要以上に心配することはないが、患者さんも日ごろから口の手入れに気を付け、BP剤投与を受けている人が歯科治療を受ける際は、『お薬手帳』などを携行して歯科医に伝えてほしい」としている。(共同通信 江頭建彦)(2010/01/12)