日本における医療ケア関連肺炎(HCAP)の大半は誤嚥性肺炎となる可能性が示されている。高齢で全身状態が悪く、誤嚥性肺炎を繰り返す患者に対しては、侵襲的な治療を行わない場合も珍しくない。新たなガイドラインが発表されても、高齢でADLの低下した患者に対する治療方針の決め方は、従来と大きく変わらないかもしれない。
「HCAPの患者には誤嚥性肺炎が多く含まれる」。こう語るのは、倉敷中央病院呼吸器内科主任部長の石田直氏だ。
石田氏は、2007年4月~09年9月に倉敷中央病院に入院し治療を行った肺炎患者のうち、米国胸部学会(ATS)と米国感染症学会(IDSA)によるHCAPについてのリスク因子(表1)のいずれかを満たす患者274人を対象に、誤嚥の有無を解析した。
その結果、対象患者のうち61%が誤嚥性肺炎に分類されたという。また誤嚥群では、原因微生物としてMRSAや嫌気性菌が同定される率が高かった。石田氏は、「誤嚥性肺炎は繰り返しやすく、抗菌薬の投与を繰り返し受けることで、多剤耐性菌のリスクが生じやすい。また、誤嚥性肺炎では口の中の嫌気性菌が起因菌になりやすい」と解説する。
また、死亡率は、誤嚥群では19%と、非誤嚥群の11%よりも高い傾向があった。ただし、この点について石田氏は、「誤嚥を繰り返すような患者は合併症を持つケースが多く、患者側の要因から死亡率が高い可能性がある」と指摘する。誤嚥群では多剤耐性菌の検出率が高いが、多剤耐性菌が死亡の直接的な原因とは断言できないという考えだ。
誤嚥性肺炎の予防のためには、口腔ケアや脳の活性化、原因疾患の治療などが重要だ。しかし石田氏が「寝たきりの患者の肺炎はほとんどが誤嚥性肺炎」というように、ADLが低下した患者において誤嚥性肺炎を完全に予防することは難しい。
実際、石田氏の解析では、誤嚥群は有意に平均年齢が高く(誤嚥群84.2歳、非誤嚥群75.0歳)、パフォーマンス・ステイタス(PS)が悪い患者が多かった。また、誤嚥群では入院日数が非誤嚥群よりも長くなっていた。
患者の状況に合わせて治療内容は個別に検討
米国におけるATS/IDSAガイドラインでは、HCAPのすべてで多剤耐性菌のリスクを考慮して濃厚に治療すべきとされている。
しかし石田氏は、「HCAPに含まれる患者の多くは高齢で、合併症を抱え、PSも悪い。患者・家族が人工呼吸や胃瘻等の侵襲的治療を望まないケースも少なくないため、このような患者に対する治療は画一的に決められない」と打ち明ける。そのため、NHCAPのガイドラインが作成されても、高齢で全身状態が悪く誤嚥を繰り返すような患者に対しては、これまで同様、人工呼吸器などによる管理を選択することは少ないと予想される。
一方、「治療すると決めた患者に対しては、耐性菌のリスクも考慮した上できちん対応すべき」と石田氏。比較的若い患者で、癌など基礎疾患の治療中に肺炎を生じることがあるが、基礎疾患の治療を成功させるためにも肺炎への対応は重要になる。石田氏の調査でも、非誤嚥群に分類された患者は4割に上る。
人生の最期に罹ることの多い肺炎治療においては、いかに死を迎えるかという人の生き方の問題が深くかかわっている。「ガイドラインが公表された後も、患者の状況や患者・家族の意思などによって個別に治療方針を決める基本に変わりはないだろう」と石田氏は語る。