国立がん研究センターはこのほど、魚やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取と自殺との関連についての研究で、「全体としては摂取量と自殺リスクとは関連しない」とする一方、女性に限っては、「魚の摂取量が非常に少ない人を平均的な摂取量の人と比べると、3.4倍のリスク上昇が認められた」とする調査結果を発表した。
魚に豊富なエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系多価不飽和脂肪酸については、その栄養成分が循環器系疾患のリスクを下げるとともに、精神的な健康に対しても好ましい効果があるとする研究データが既に発表されており、動物実験でも実証されている。
研究では、1990年と93年に岩手県二戸、高知県中央東、沖縄県宮古など全国9保健所管内に住んでいた40-69歳の男女約10万人のうち、2005年までの追跡調査期間に自殺した298人(男性213人、女性85人)について調査。研究開始から5年後に行った食物摂取頻度調査の結果から、魚やEPA、DHAの摂取量を推定し、摂取量ごとに男女それぞれ5グループに分けて分析した。
それによると、全体としては男女とも、魚の摂取量やEPA、DHAの摂取量と自殺との関連は認められなかった。
ただし、摂取量が最も少ないグループを平均的な摂取量のグループと比べると、女性に限って魚で3.4倍、DHAで2.0倍のリスク上昇が認められた。この関連は、男性では認められなかった。
また研究では、喫煙や飲酒、持病などの自殺リスクを高める要因を持っている人と持っていない人に分けて同様の解析を行ったが、ほとんどで関連は認められなかったものの、飲酒をしない男性では、EPAやDHAの摂取量が最も多いグループの自殺リスクが最も少ないグループに比べてそれぞれ2.4倍、3.4倍となり、女性とは逆の関連が認められた。
こうした調査結果から研究班は、魚は日本人の健康的な食生活を特徴付ける食品とされており、精神的な健康を保つために一定量の摂取は必要であるものの、「多く摂取することが自殺リスクを低下させるという予防的な関連は認められない」としている。
詳しくは、国立がん研究センターの多目的コホート研究のホームページで。
( 2010年11月05日 19:46 キャリアブレイン )