東日本大震災で亡くなった人の身元確認を迅速化しようと、宮城県警と県歯科医師会は遺体の歯の治療状況と行方不明者のカルテをデータベース(DB)化し、パソコンを使って照合する作業を進めている。「一日でも早く家族の元に遺体を届けたい」と歯科医や警察官が奮闘。岩手、福島を含めた3県警の間で情報を照会し合える仕組みも検討している。
宮城県歯科医師会などによると、検視の際に歯科医が治療痕や詰め物の材質などの診療情報を記録。歯の状態を1本ずつ数字で表し、パソコンでDBに入力する。並行して行方不明者が通っていた歯科医院からカルテを集め、内容を入力すると類似度の高い順に表示される仕組み。最終的には歯科医が目視で判定する。
DBは埼玉県美里町の歯科医が開発したソフトを東北大の青木孝文(あおき・たかふみ)教授(情報工学)が改良した。青木教授は「膨大なデータから手作業で情報を取り出すのは難しい。検索できれば歯科医の士気も上がるのではないか」と指摘。研究室のメンバーが中心となって入力作業をしている。
毎晩午後6時を過ぎると、診療を終えた歯科医ら数人が宮城県警本部の一室で身元確認作業を始める。仙台市の歯科医柏崎潤(かしわざき・じゅん)さん(46)は「DB化で作業効率が上がり、記録の重要性が実感できる」と手応えを感じている。
1日に発見される遺体は現在5~10体。着衣が取れ、遺体の損傷が激しいため外見からの身元特定は困難だ。DNAが採取できない遺体もある。
歯は死後の変化が少なく、歯型や治療痕がまったく同じ人はいない。DNAや指紋とともに身元確認の"三種の神器"と言われる。県警幹部は「三つの手段を総合的に判断して身元を特定している」と話し「行方不明者の通っていた歯科医などの情報を寄せてほしい」と呼び掛ける。
さらに県警と県歯科医師会は、治療情報だけでなくエックス線画像のDB化も目指し、持ち運びできる装置で遺体の口腔(こうくう)内撮影を始めた。今後、行方不明者の画像と順次照合していく方針だ。
2011年6月13日 提供:共同通信社