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顎の痛み=山根源之 口福学入門/5

食べるとき、話すときには口をいろいろな方向に動かしますが、どうやって動いているのかご存じでしょうか。

 口を使うと、唇や頬が動くため、顎(あご)も上下が動くように思えますが、本当に動いているのは下顎だけです。上の歯が並んでいる歯槽骨は頭の骨に固定されています。下顎骨(かがくこつ)の左右の端は頭の骨にある関節窩(かんせつか)というへこみに入っており、そこを支点としてハンモックのようにぶら下がっています。ハンモックの体をのせる場所に歯が並び、下顎骨の表面から周囲の組織へ張り巡らされている筋肉や腱(けん)がこのハンモックをコントロールしています。運動神経に支配された複数の筋肉の緊張と緩みの絶妙なバランスで顎の静止や運動をするのです。

 私たちは上下の歯のかみ合わせで顎が最も安定する位置を探しますが、個人の歯並びや歯の欠損状態に左右されます。リラックスしている時には唇は閉じていますが、上下の前歯は接触せず約2ミリの隙間(すきま)があります。一方、ヒトのかみしめる力は意外と強く、その力に耐える歯が健全な場合は、自分の体重に近い40~60キロの力を発揮します。24時間顎の動きに休みはありません。加えてストレスでの食いしばりや、クセで絶えず口を動かすこと、頬づえなどは関係する筋肉のバランスを崩して顎関節症になりやすくなります。

 手足の関節と違い、顎関節は左右同時に動きます。ハンモックを斜め方向に振った場合を想像してください。左右の関節には異なったねじれが出るので痛みの原因になります。過度な開口では顎がはずれ、口を閉じられなくなります。

 下顎の運動には首の筋肉も関係しており、不調をきたすと肩こりの原因にもなります。人間の頭の重さは体重の約8%、4~6キロあるので、ヒトは常に重い頭を首で支えていることになります。その上、複雑な運動をする下顎をぶら下げているので、どこかのバランスが狂うとすぐに周囲に波及して深刻な痛みなどの症状がでます。

 最近は、愛犬の顎関節症がインターネットで話題になっているようです。犬たちにも人間並みのストレスがあるので、口腔(こうくう)状態も変化したのでしょうか。(やまね・げんゆき=東京歯科大名誉教授)
2011年8月22日 提供:毎日新聞社

早食いは太る? 血糖値急上昇脂肪に転換

 早食いが太りやすいことは今や常識となりつつあります。よくかまずに早く食べることで、脳が満腹感を感じる前につい食べ過ぎてしまい、カロリーオーバーとなって肥満を招きやすくなる、早食いにより食欲を抑制するホルモンの量が減るなどが理由だと考えられています。しかし、食べる量が同じでも、早食いは太りやすいのです。名古屋大医学部のグループが、愛知県内の約5千人を対象に、食べる速度を「かなり遅い」から「かなり速い」まで5段階に分類。食べる量の違いや運動習慣が体重に与える効果を統計的補正した上で、純粋に食べる速さと肥満との関係を調査しました。その結果、食べるのが「かなり速い」人は「かなり遅い」人に対して、男性で6.9キロ、女性で5.9キロも平均体重が重いことが明らかとなったのです。早食いが肥満を招くのは、一気に食べることで急上昇した血糖値を抑えるためにインスリンが大量に分泌され、血液中の糖が脂肪に転換されるためと考えられています。「早食い」という行為そのものが肥満の原因になるわけです。また、毎回のようにインスリンが大量動員される食生活は膵臓の消耗を招くため、早食いは糖尿病予防の点からも好ましくありません。現代の若い人に多い、高カロリーのファストフードを糖分たっぷりのドリンクでほとんどかまずに流し込む食べ方は、肥満のみならず糖尿病への危険性が高いといえます。早食いの癖は若い時に身につきやすいようです。子供のころから、繊維質の多い歯応えのある食材を、ゆっくりよくかんで食べる習慣を身につけることが肥満や糖尿病の予防につながるのです。
                北海道新聞 2011.8.3

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