妊娠中、胎児の成長過程で、「のどちんこ」はどのようにできてくるのでしょうか。口の中の空間を口腔といい、鼻の中の空間を鼻腔といいますが、胎生期の初期段階では鼻腔と口腔の境がなく、ひとつの腔として存在します。胎生7~8週、まだわずか約18~25mmの長さの胎児の口の中で大変革がスタートするのです。鼻腔と口腔に分割するように、左右前方から突起のようなものがしだいに伸びてきます。最初は前方の骨の部分(硬口蓋)、次にその後ろの柔らかい部分(軟口蓋)、ついには口蓋垂(「のどちんこ」)が形成されるのです。
この突起が癒合するときのことをよく調べてみると、実に不思議なことが起こっています。左右の口蓋突起が接触すると、突起を覆っている上皮という皮が溶けてなくなるという現象があるのです。左右が強固に結合するには、中の組織がしっかりと結合しなければなりません。左右の口蓋帆挙筋も結合しなければなりません。そのためには、上皮の細胞が溶けて消えなければなりません。
このように細胞が自滅することを、アポトーシスといいます。左右の突起が接触すると上皮のアポトーシスが起こるのです。これはからだの形成過程ではよく起こっていることです。決められた時間に決められた場所で、このようなアポトーシスは起こるのです。鼻腔と口腔の分離、わずか2週間の間にこのような口の中の大変革が起こるのです。できあがった「のどちんこ」は、胎児では活動するのでしょうか。それは「イエス」です。おかあさんのおなかの中で胎児の嚥下運動(飲み込み)というものは認められています。その際も、胎児の軟口蓋は前述のプログラムされた嚥下運動の一部を正確に行っているのです。