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現場から考える胃ろう(4)- 口から食べてもらう努力をしているか

早期の治療・ケア・リハで食べられる

 小山氏は、急性期病院が、食べられない人をつくり出してきたと言う。
 リハビリ病院で働いていた時、急性期病院が廃用症候群をつくり出していると思った。転院のサマリには、患者の栄養についての情報は記載されていても、「食べること」についての情報はなかった。「いろいろ試したが、仕方なく胃ろうを着けた」といった報告もほとんどなかったという。
 口から食べられる機能を残すには、急性期病院での早期リハビリが欠かせないと思い、2006年に現在の東名厚木病院に移り、実績が認められ、摂食嚥下療法部の立ち上げとなった。
 同院では、脳卒中や誤嚥性肺炎の患者が入院すれば、すぐに同部に連絡が入る。それから、摂食嚥下リハビリを始めることになるが、軽度であれば、入院初日から食べることをスタートする。
 同部では、医師、看護師、リハビリスタッフ、歯科医、歯科衛生士、栄養士らによる多職種チームが、嚥下機能が低下した患者に対し、「治療」「ケア」「リハビリ」を同時に進めている。
 看護師と言語聴覚士(ST)が、早期スクリーニングと経口摂取を開始するほか、看護師と歯科衛生士による口腔ケアや、リハスタッフによる呼吸リハビリや早期離床とポジショニング(食べる姿勢)の確保も重要になる。食べやすい姿勢を保つために、専用のテーブルやリクライニングの車いすを用意することもある。患者の目線やスプーンの形状などにも気を配る。
 同療法部は、介入している患者(常時30~40人程度)の状況を毎朝チェックし、ミーティングを行う。医師、病棟看護師、リハビリ科との調整も重要だ。
 小山氏は、口から安全に食べ続けてよりスピーディに生活の場に戻るためには、多職種が協働しながら成果を出す必要がある。そのためのチームマネジメントが欠かせないという。
 小山氏は、早期に食べるための評価を行い、安全なものから少しずつ食べていけば、経口摂取ができるようになる人は何人もいると強調する。
 2007年度から10年度にかけて同院で摂食機能療法を行った患者(1707人)のうち、退院時に経口できたのは、肺炎で82.5%、脳卒中では91.8%に上る(死亡者を除く)ことがそれを裏付けている。
 しかし、治療、ケア、リハを同時に進めなければ、絶食となり、さらに寝たきりになり、気付いたときにはもう、口から食べられなくなっているという。

 小山氏は、患者が地域に戻っても、経口摂取に取り組める人が非常に少ないことが大きな問題と考えている。「胃ろうを造ったら食べさせなくなるのが、今の医療と介護。逆に胃ろうを造らなければ、何とか食べさせようと工夫するはず」
 小山氏は、口から食べる尊厳を守り、患者の願いを実現できる人材を育てていくことが、何よりも重要と考えている。

現場から考える胃ろう(4)- 口から食べてもらう努力をしているか

「医療・介護従事者は、患者に口から食べてほしいと本気で思っているのだろうか」。東名厚木病院(神奈川県厚木市)摂食嚥下療法部の小山珠美課長は、疑問に思ってきた。重症の誤嚥性肺炎の患者にケアやリハビリを行い、口から食べられるようになっても、転院したり、介護施設に移ろうとすると、「胃ろうでなければ受け入れない」と断られる。【大戸豊】


小山珠美氏は、胃ろうを着ける前に、「口から食べてもらうために、真剣に取り組みましたか」と問いたいという
 「肺炎のリスクがあるから」と言われるが、患者が少しでも食べたいと望むなら、その願いをかなえようと努力すべきではないか。
 小山氏が看護師になった頃、胃ろうは存在しなかった。神経難病の病棟に勤務していたが、生きている限り、口から食べることは当たり前であり、食べられなくなることは死を意味していた。だからこそ、誤嚥をしている人でも、何とか好きなものを食べてもらおうと必死だった。そこでの看護を通じて、生きる根源は食べることだと考えるようになった。
 小山氏は「口から食べられる人と、そうでない人は根本的に違う」と言う。口から食べられなくなると、自ら生きようとする力が奪われてしまったと感じられる。

 胃ろうが普及して、現場は口から食べさせようとしなくなったのではないか。代替栄養が優先され、「栄養は胃ろうから取っていればいい」などと安易な考えが広がっていないだろうか。
 NST(栄養サポートチーム)などが浸透する中、栄養の補給が注目されているが、小山氏は「人としての生きた栄養」を見ようとする意識が薄れていると感じる。
 高齢者の「食べること」を支えるには、栄養だけでなく、体を動かしたり、口腔ケアや呼吸ケアを行ったり、排せつを促したりする必要もある。それらがそろわないと、食べることができないという。
 胃ろうに反対するつもりはない。しかし、胃ろうを着ける前に、「口から食べてもらうために、真剣に取り組みましたか」と問いたい。
 もし、自分の家族が、胃ろうを着けて寝たきりだったら、少しでも楽しみや希望を持てるのか。小山氏は、相手の立場に立って考えれば、何をすればいいのか分かるはずと言う。

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