東京都中央区の歯科医院で2007年、インプラント手術中に女性=当時(70)=の動脈を傷つけ死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた歯科医師飯野久之(いいの・ひさし)被告(68)に東京地裁は4日、「危険性の高い手術をしながら、医療水準に対応する努力を怠った」として禁錮1年6月、執行猶予3年(求刑禁錮2年)の判決を言い渡した。
インプラント手術では、術後に痛みや出血などを訴えるトラブルが多発。民事訴訟に発展する事例は多いが、刑事事件は初めてとみられる。被告側は控訴する方針。
動脈を傷つける予見可能性があったかが主な争点となり、弁護側は「歯科医師の間で当時、損傷の可能性は知識として共有されていなかった」と主張していた。
吉村典晃(よしむら・のりあき)裁判長は、専門家の証言や文献の記述などから「口の底部の血管は人により多様な形状があり、底部を傷つけると出血などの事故につながる危険性は以前から指摘されていた」と判断。
下顎の骨に意図的に穴を開ける被告のやり方について「安全性や有用性に問題があると言われていたのに、血管損傷の危険性はないと軽信した」と過失責任を認めた。
一方、遺族との間で和解が成立したことや、これまで長年診療を続けてきた事情を考慮し、刑の執行を猶予した。
判決によると、被告は07年5月22日、女性の下顎の骨を削った際、誤って動脈を傷つけて出血させ、血腫が原因の窒息による低酸素脳症などで翌日に死亡させた。