インプラント手術を手掛けていた福岡市博多区の歯科医院「シティデンタルクリニック」を運営する医療法人「樹啓会」が2月に経営破綻し、前払いした治療費の返還などを求める苦情が患者から相次いでいる。治療中の患者は、判明分だけで九州各県などの約210人、前払い額は約2億4700万円に上る。インプラント手術は保険適用外の自由診療で患者が多額の費用を支払うため、損害額が膨れ上がった形だ。
「去年の6月に300万円を払ったのに、手術を全くしてもらっていない」「治療の途中で倒産し、別の歯科で診てもらうと75万円かかると言われた」―。今月上旬、同区内に患者ら11人が集まった会合では、戸惑いや怒りの声が相次いだ。
インプラント手術は、顎の骨に穴を開けて支えとなる歯根を埋め込み、上部に人工の歯を取り付ける技法。
博多区の60代女性は同医院に200万円を払い、2008年から2年間で6本のインプラント手術をした。今年2月に装着した人工歯が外れ、医院を訪れたところ「閉院」の張り紙。別の歯科に行くと「手術が不十分で、いずれ全て外れる。手術し直すには300万円かかる」と診断された。女性は手術のために貯金を取り崩したといい、「10年間保証するという契約だったので安心していたのに。入れ歯にするしかない」と話した。
患者の中には、手術前に歯を抜かれたまま、残りの治療を受けられなくなった人もいるという。
樹啓会側が、福岡地裁に提出した破産手続き開始申立書や信用調査会社などによると、同法人は2000年に設立され、05年に現在地に医院を開設。一時は北九州市などにも医院を持ち、年間5億円超の収入があった。一方で設備投資費や広告費などが膨らみ、契約していたコンサルタント会社とのトラブルもあり経営が悪化したという。同地裁は2月、破産手続き開始を決定した。
取材に対し、法人の理事長は代理人の弁護士を通じ「故意に治療を引き延ばしたことはなく、患者が治療を継続できるよう最後まで努力をしていた。ご迷惑を掛け申し訳ない」とコメントした。