伊那中央病院(伊那市小四郎久保)が昨年11月から開講している「心臓病教室」の第8回が2月26日、同病院講堂であった。最終回の今回は介護に視点を当てた2部構成で、前半は言語聴覚士の堺沢彩さんが「食べるということ」と題して講演。水分や食べ物が食道ではなく気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」の危険性と予防などについて解説し、約130人が熱心に耳を傾けた。【宮坂一則】
■誤嚥とは
最近むせるようになった▽食べ物が喉に引っかかる▽飲み込んだのにまだ喉に残っている――。こんな症状を自覚したことがありますか。食べたり飲んだりすることに支障が出ることを「嚥下(えんげ)障害」と言います。
脳卒中などの病気や老化現象、寝たきり、全身状態の悪化などから起こりますが、一番命に関わるのは「むせる」ということです。本来は水分や食べ物が食道を通って胃に入りますが、食道ではなく気管に入ってしまうことを「誤嚥」と言い、むせるのは肺に入るのを防ぐ防御反応です。しかし、むせたからといって必ずしも防御ができるわけではなく、むせ方が弱かったり、喉の感覚が悪かったりしてむせない誤嚥もあると言えます。
■繰り返すと肺炎に
頻繁に誤嚥を繰り返すと、突然高熱が出たり微熱になったりを繰り返す▽たんが増える▽むせることが増える▽食欲がない――などの症状が出て肺炎になる可能性が高くなります。厚生労働省の調査によると、日本人の死因の第3位は肺炎といわれており、その97%は65歳以上の高齢者で、多くが誤嚥による肺炎ということです。
肺炎が長期化すると全身状態が悪くなるため飲み込みの能力がさらに低下し、心疾患の悪化にもつながりかねません。命に関わることでもあるので、誤嚥の兆候を覚えておき、わずかなことでも怪しんでみてほしいと思います。
■どう防ぐ
食事の際、おしゃべりをしながらとかテレビを見ながらの食べ方をしていませんか。これは誤嚥の確率が高くなります。ベッドでの誤嚥を防ぐには、マットレスの角度でなく体の角度で調節してください。枕を入れるなどして頭に角度をつけると飲み込みやすくなります。姿勢の調節の他、ゆっくり食べる▽少しずつ口に入れる▽食物を柔らかく一口大に切る――などが大事です。介助のポイントとしては、姿勢を整える▽目線を合わせる▽ゆっくり少量ずつ運ぶ▽飲み込むのを確認する▽安易に話しかけない――などです。水分でむせる場合は「とろみ」をつけることで安全に飲み込めるようになります。
飲み込みにくくなる理由の一つに唾液の減少があります。食事の前に口を大きく開けたり閉じたり、舌を出したり唇をなめたりして、食べるための準備をすることも必要です。誤嚥は誰にでも起こりうることですが、気を付ければ防げます。より安全に楽しく食べられるよう日常の食事を工夫してみましょう。毎日新聞社 2014年3月13日(木) 配信