永久歯が何らかの原因で作られず、欠損してしまう状態は「永久歯の先天欠如」と呼ばれる。国内では、1本~数本の永久歯が生えてこない子どもが10人に1人程度いるとみられる。成長期に歯の欠損を放置すると、歯並びやかみ合わせの異常ばかりでなく、顎や顔の変形にもつながりかねない。治療には将来を見据えた長期的な計画が必要だ。異常に気付いたら、小児歯科や矯正歯科の専門医に相談したい。
▽大規模調査
2010年11月、日本小児歯科学会が永久歯先天欠如に関するデータを公表し注目された。全国7大学病院の小児歯科が中心となり、07~08年に実施した国内初の大規模調査。虫歯などで歯科を受診した7歳以上の子ども1万5544人のエックス線写真を精査した結果、10・1%に当たる1568人(男子685人、女子883人)に先天欠如が見つかったという報告だ。
研究代表者で、現在は同学会理事長を務める山崎要一(やまさき・よういち)・鹿児島大教授は「少ない数ではありません。小児期の重大な歯科疾患であることを社会に示しました」と話す。
乳歯は上下合わせて20本。永久歯は親知らずを除いて28本あり、このうち20本は乳歯の代わりに生えてくる。胎児期から出生後9カ月までの間、「歯胚」と呼ばれる永久歯の"芽"が顎の骨の中で形成され、これが育って歯肉表面に顔を出す。ところが歯胚がもともと作られず、永久歯が生えてこない場合がある。先天欠如だ。
▽原因不明
調査では、エックス線写真に歯胚が写っているかどうかを調べた。その結果、欠如は上顎より下顎に多くみられ、特に下顎の第2小臼歯の欠如率(左側3・26%、右側2・84%)が高かった。
先天欠如の原因は、ごく一部の患者で遺伝の関与が認められる以外は解明されていない。栄養不足や退化など、さまざまな説があるが、いずれも根拠に乏しいという。原因が分からないから予防するすべもない。
欠如の影響は深刻だ。乳歯が残っている間は問題ないが、乳歯の喪失後に欠損部を放置していると、周囲の歯が移動したり傾いたりして、歯並びやかみ合わせがどんどん悪くなる。
食べにくさから欠損部とは反対側の歯ばかり使っていると、顎の骨や咀嚼(そしゃく)筋の発育にも影響が及び、顔がゆがんでしまうこともある。「大人と違って成長途上の子どもの骨は歯がない状態に適応して変形しやすい。欠損部には汚れがたまりやすいため、虫歯や歯周病のリスクも高まります」と山崎教授は解説する。
▽パノラマ写真
先天欠如が見つかった場合に大切なのは、長期的な治療計画を立て、適切な時期に適切な治療を行うことだ。欠損があるからといって、むやみにブリッジやインプラントを施せば、成長過程の歯や骨をかえって傷めてしまう。いずれはこうした治療が避けられなくなるにしても、時期を極力先延ばししたい。そのためには、残っている乳歯を大事にしながら、歯並びやかみ合わせに異常が生じないように管理を続けることが重要だという。
だが、先天欠如を治療できる歯科医は全国的に少ない。治療の多くは自費診療で、患者の経済的な負担も大きい。治療環境は十分ではない。
また、現状では虫歯などの治療の際にエックス線写真を撮り、たまたま先天欠如が発見されるケースが多い。