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(老いとともに)元気な老後、歯のケアから

年をとるにつれ、歯周病や虫歯が原因で歯を失う人は少なくない。自分の歯がどれだけ維持できるかは食べる楽しみだけでなく、転倒や介護のリスクにも関わることがわかってきた。「ケアを続けることが元気な老後につながる」と専門家は言う。

 ■80歳で20本以上目標

 新潟市に住む鈴木正樹さんは90歳を迎えた今も、しっかりした足取りで歩き、自転車で出かけることも多い。持病もなく、「たくあんなど硬いものでも何でも食べられますよ」という。

 7月にあった「いきいき人生よい歯のコンクール」(新潟県など主催)では、地域の代表19人の中で最優秀賞に選ばれた。人には通常、親知らずを含めて計32本の歯があり、鈴木さんは親知らず1本を除く計31本の歯が残っている。

 鈴木さんは「歯磨きは朝ともう1回くらい。定期的に病院で歯の掃除をしてもらっている以外は特別なことをしていない」と謙遜するが、選考で鈴木さんの歯を診た新潟市歯科医師会の滝澤賢一理事は「90歳で31本の歯が残り、歯茎の状態も良くて驚いた」という。「高齢になると手の力も弱まって歯磨きを十分にできない人が多いが、体がしっかりしているので、きちんと磨けているのでは」

 厚生省(当時)や日本歯科医師会は1989年から「80歳で20本以上自分の歯を保とう」という「8020(ハチマルニイマル)」を提唱してきた。20本以上あれば、ほぼ不自由なく食べることができるからだ。2013年の国民健康・栄養調査では、70歳以上でも自分の歯が20本以上あると8割以上が「何でもかんで食べることができる」と答え、1~19本の人では5割以下にとどまった。

 93年の歯科疾患実態調査によると、「8020」の達成者は推計で10・9%。2011年は38・3%に増え、80歳の歯の平均本数も同期間で5・9本から13・9本まで増えた。虫歯や歯周病の予防に対する意識が高まったのが一因とみられる。

 鶴見大歯学部の花田信弘教授(探索歯学)は「何でもかめるかどうかは年齢ではなく、20本以上の歯を残せるかに左右される」と話す。

 ■失うと寿命にも影響

 歯を失うと寿命に影響するという報告もある。

 厚生労働省の研究班が87年から約15年間、沖縄県で実施した調査によると、80代男性の場合、使える自分の歯が10本以上ある人(平均19・4本)は10本未満の人(平均1・9本)に比べ、生存期間が推計で約2・5年長かった。

 調査を担当した深井穫博・日本歯科医師会常務理事によると、歯が抜けてかむ力が弱まると、食べられる食品が偏って低栄養になり、筋力が落ちやすくなる。かみ合わせが悪いと体の重心が不安定になり転びやすくなるとも考えられる。深井さんは「体が弱って日常生活に支障が出たり、転んで骨を折ったりして、結果としては要介護になるリスクが高まる」と説明する。

 ただ、自分の歯を失っても義歯でかむ機能をある程度は補える。

 神奈川歯科大の山本龍生准教授ら厚労省研究班が愛知県で実施した調査では、自分の歯が20本以上の人に比べ、19本以下の人は要介護になるリスクが1・21倍高かった。さらに歯が20本以上の人に比べ、19本以下の人は転倒のリスクが2・5倍高いと出た。ただ、19本以下でも義歯を使っているとリスクは1・36倍に抑えられた。

 義歯には取り外しができる「入れ歯」のほかに、両側の歯を土台にして人工の歯を橋のように架ける「ブリッジ」、骨に金属を埋め込んでその上に人工の歯をつくる「インプラント」がある。

 日本歯科大の羽村章教授(高齢者歯科学)は、1本でも抜けたら放置せずに歯科医に相談することを勧める。抜けた歯の周りは汚れがたまりやすく、周囲の歯を失うリスクも高まる。

 羽村さんは「入れ歯は一度作ったら一生使えるものではない。口の中の状態が変わったり、人工の歯の部分が削れたりして、5~10年で一部または全部を作り直す必要がある。ブリッジやインプラントも定期的な診察を」と話す。

 ■フロスやフッ素、定期的に受診を

 歯を健康に保つためには日常のケアが欠かせない。食後の歯磨きのほか、歯と歯の間に残った歯垢(しこう)は歯間ブラシやデンタルフロスを使って取り除く。

 深井さんは「虫歯の予防効果があるフッ素入りの歯磨き剤や洗口液も使ってほしい」と言う。洗口液は歯を磨いた後、寝る前などに口に含んですすぐことで口内を殺菌し、口臭や歯垢の沈着などを防ぐ。高齢者の場合、手の力が弱くて十分に磨けない人は、電動ブラシがおすすめという。

 花田さんは「お茶に含まれるポリフェノールは歯周病菌や虫歯菌の働きを妨げる効果がある」と話す。牛乳や乳製品に多く含まれるカルシウムには歯を健康に保つ効果がある。日ごろから食事をよくかんで食べればあごが鍛えられ、唾液(だえき)の分泌が増えて虫歯や歯周病の予防にもつながる。

 歯や歯茎の状態を定期的に歯科医に診てもらうことも大事だ。年齢によっては自治体が実施する歯科検診を利用する方法もある。

 健康増進法に基づいて実施する「歯周病検診」は、40歳、50歳、60歳、70歳が対象だが、対象年齢を広げたり、かむ機能や唾液を検査項目に入れたりしている自治体もある。住んでいる自治体で確認するといい。

 他にも自分の口の中の状態を知る機会はある。毎年6月には「歯と口の健康週間」、11月には「いい歯の日」(11月8日)にちなんだ啓発イベントが各地で開かれ、歯や唾液などの検査を受けられることが多い。(南宏美)

のみ込む力 電気で治療 世界初 嚥下障害で機器開発 兵庫医大

兵庫医科大(西宮市)などの研究グループは31日、食物をのみ込む力が低下した「嚥下(えんげ)障害」に対し、喉の神経を微弱な電気で刺激して治療する世界初の機器を開発した、と発表した。嚥下障害は食べる楽しみを奪い、死因の3位である肺炎を引き起こすが、根本的な治療法がなかった。機器は9月下旬に発売予定。

 食物が喉に達すると喉の神経から脳へ情報が伝わり、脳が命令を出して食物を食道、胃へと送るのが「嚥下」。嚥下に障害があると、誤って空気が通る「気管」に食物が入り、肺炎の危険が高まる。

 嚥下障害は脳卒中などのため喉の神経活動が低下し、脳の命令が遅くなることが主な原因。年間約40万人の脳卒中患者のうち、7割以上に起こるという。

 開発した機器は、食事の際、首にパッドを付けて微弱な電気を流し、喉の神経活動を活発にする。従来あった嚥下の筋肉を強化する電気治療器を参考にし、電気を弱めて流し方を工夫。従来機器の問題だった痛みをなくした。

 開発した機器を12人の患者に試した結果、嚥下の速度が約15%改善し、正常化。機器は医療機器製造販売「ジェイクラフト」(大阪府和泉市)が手掛け、7月に製造販売の認証を受けた。兵庫医科大生理学講座の越久仁敬主任教授(56)は「兵庫発で全国にこの新治療法を広げたい」と話す。

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