新学期が始まり、小中学校で健康診断のシーズンを迎えた。ただ、歯科検診で「問題なし」と言われても、歯科医院で虫歯が見つかることがあるという。なかったはずの虫歯が、なぜ見つかるのか。
埼玉県朝霞市立第八小学校であった歯科検診を訪ねた。「歯列0……6番がCO(虫歯になりかかっている歯)……」。校医を含む4人の歯科医が、3~5年生の児童を次々と診ていく。その数500人以上。あごを触って口の開け閉めの状態を確認、口の中はミラーで視診して、1人約1分のペースだ。
●診察とは別物
「学校での歯科検診と、かかりつけ歯科医が行う検診(診察)は別物」。こう断言するのは、日本学校歯科医会の丸山進一郎会長だ。自身も東京都内と埼玉県で開業する傍ら、校医として30年以上、歯科検診に関わってきた。
学校検診では、歯科医が▽0=健康▽1=要観察▽2=要治療の3段階にスクリーニング(ふるい分け)している。学校生活に支障のあるレベルの虫歯などを見つけて、専門医への受診を促す。「専用の照明器具も椅子もレントゲン設備もない。医院とは異なる環境でも、可能な限り丁寧に診ている」(丸山会長)というが、おのずと限界はある。小さな虫歯を見落とすことも、逆に虫歯でない歯がそう見えてしまうこともあり得るのだ。
東京都内の歯科医は▽学校の検診で「問題なし」だった子どもを、直後に診て虫歯が見つかった▽逆に「要治療」だったが、食事や歯磨きの指導で虫歯への進行を食い止められるレベルだった、という両方のケースを経験している。
●自分で守る意識を
歯科検診は従来、歯を探針と呼ばれる金属製の器具でつつくなど虫歯発見に重点を置いていたが、1995年度からスクリーニング法に切り替えた。予防への関心が高まり、子どもの虫歯が激減したことがきっかけだ。文部科学省の学校保健統計調査によると、84年度に1人平均4・75本あった12歳の永久歯の虫歯等の数は、昨年度は平均0・90本まで減っている。
丸山会長によると、現在の歯科検診は保健教育の一環として位置づけられ、結果は歯磨きや食生活などを見直すための「教材」になっている。朝霞市立第八小で養護を担当する酒巻聖美教諭は「以前は低学年対象だった歯磨き指導を、4年生で始めた。永久歯の数が増えてくる一方で、歯垢(しこう)や歯肉の状態が悪くなる時期だからだ。検診以外でも歯の健康を意識してもらえるよう取り組んでいる」と話す。
歯科検診の結果はこれまで、要観察と要治療の子どもだけに知らされることが多かった。文科省は今年度から、検診結果が「0」だった子も含め全児童生徒に「検診結果のお知らせ」を配り、きめ細かく周知することにした。
丸山会長は「学校検診は、歯科医が虫歯を確実に発見したり、1年に1度『お墨付き』を与えたりする機会ではない。結果が良好であっても、保護者は定期的に歯科医院に連れていき、子どもたちに『自分の健康は自分で守る』意識を育ててほしい」と訴える。
●保護者、関心二極化
小児歯科専門医院「レオーネキッズデンタルクリニック」(東京都荒川区)の荻原栄和院長は、かかりつけ歯科医院を持つメリットについて「設備が整っているぶん、より細かい異常を見つけられる。保護者に直接説明できる意義も大きい」と説明する。
「乳歯の生え変わりが遅い」「口臭が気になる」といった心配事を相談し、その場で答えてもらうことは保護者の安心につながる。前回のレントゲン写真と比較して、治療の進み具合や永久歯の生え方などを確認できるのも、継続して同じ歯科医院に通う良さだ。荻原院長のクリニックの初診の平均年齢は3歳。早い子は離乳食指導を受けるため0歳から通うという。
一方で荻原院長が気になるのは、学校検診で「要治療」のお知らせをもらっても歯科に行かない子どもたちの存在だ。「区内の学校検診を担当しているが、各学年で2、3人ほどは受診していない印象がある。子どもの口内について保護者の関心の度合いも二極化しているようだ」と危惧し、「予防のためには年3~4回、虫歯の有無を確認するためには最低年2回、歯科医院を受診してほしい」と呼びかけている。