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アレルギー、食道や胃腸にも のどの詰まりや胸焼け、国内でも症例

食べ物や花粉によって食道や胃腸に炎症が起き、のどの詰まりや胸焼けにつながる「消化管アレルギー」の患者が、国内でも見つかるようになってきた。ステロイドによる治療や、アレルギーの原因となる食材を取り除いた食事療法が試みられている。

 ■ステロイド治療、有効

 島根県に住む50代の男性は昨春から胸焼けがするようになった。近くの診療所で処方された胃薬では改善せず、半年後にはのどの詰まりも気になり始めた。

 島根大病院(島根県出雲市)で、内視鏡検査や組織を調べた結果などから、「好酸球性食道炎」と診断された。口に入った食物や微生物によるアレルギー反応で、好酸球という白血球が食道の粘膜などで増えることで起きる。胸焼けや胸痛、うまく食べ物をのみ込めないなどの症状が出る。重症化すると、食道が狭まって食べ物が詰まるなどすることもある。

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)という胃酸の分泌を抑える薬を2カ月飲んだが、効果はなかった。ぜんそくの治療で気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬に切り替えると、1カ月ほどで収まった。男性は「つかえた感じがなくなった。調子が良い」と喜ぶ。

 好酸球性食道炎の患者は30~50代の男性に多く、半数はぜんそくや花粉症などアレルギーの治療歴がある。食物が原因で急激に生じるアナフィラキシーとは異なり、時間をかけて炎症が起きて症状が出てくるとみられている。

 島根大の木下芳一教授(消化器内科)によると、この食道炎は1990年ごろから欧米で患者が増え始め、日本では2006年に初めて確認された。島根県内の医療機関で内視鏡検査を受けた2万人を調べると、この食道炎がある人の割合は、10年には5千人に1人だった。別の調査では14年に約2500人に2人と報告されている。

 治療は、まずPPIを使って効果をみる。この薬で患者のほぼ半数が改善する。PPIが効かない場合、ステロイドを使った治療法が有効だとわかってきた。吸入ステロイドは患部の周辺にとどまり、その後分解されるため、副作用の影響が少ないという。

 消化管アレルギーは、食道炎だけでなく、胃や小腸で起きる胃腸炎もある。胃腸炎は腹痛や下痢などがあり、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢で発症する。吸入ステロイドでは患部に届かないため、全身に効くステロイドを治療に使う。

 ■何が原因?順番に食べ特定

 消化管アレルギーは、原因となる食品を特定して取り除けば、根治できる可能性が高い。ステロイド治療は、使い続けると骨粗鬆症(こつそしょうしょう)やうつ病の副作用が出る恐れがあり、薬を減らすと再び症状が出ることもある。

 血液検査では原因物質を特定できないことが多いため、実際の食事で調べる。まず、アレルギーを起こしやすい6種類の食品(小麦、大豆、ミルク、ナッツ、卵、海産物)を除いた食事をとる。それで症状がなくなれば、除去した食品から1種類だけを加え、再発しないか2週間ほど経過を見守る。アレルギーの症状が出なければ、1種類ずつ試していき、症状が出る食品が見つかるまで切り替えていく。ただ、複数の食品が原因の場合もある。

 欧米で患者が多い食道炎では、この食事療法の効果が確認されている。米国の研究グループは2012年、患者50人のうち78%で、上昇していた好酸球の値が50%以上減少し、94%で嚥下(えんげ)障害が軽くなったと報告している。国立成育医療研究センター研究所免疫アレルギー・感染研究部の野村伊知郎室長によると、胃腸炎では有効性を確かめている段階という。

 治療を受けられる病院も限られる。原因となる食品の特定には入院が必要で、厳密な食事管理や、栄養士らとの連携が求められる。国内では現在、島根大病院と国立成育医療研究センターにとどまるという。

 野村さんが代表を務める厚労省研究班は、班員らにノウハウを伝え、食事療法を受けられる拠点となる医療機関を各地方で1カ所程度に増やすことを目指している。

高齢者、薬の飲み過ぎ防げ 生活習慣見直し、併用減

病気をいくつも持つ高齢者には、さまざまな種類の薬が処方される。臓器などの働きが低下した高齢者が、多くの薬を一緒に飲むと、意識障害や低血糖など「薬物有害事象」と呼ばれるトラブルを起こしやすい。今年1月には日本老年薬学会が発足し、医療関係者の間で高齢者の多剤併用を見直す取り組みが広がっている。【堀井恵里子】

 ◇意識障害や低血糖招く

 「お父さん、お国はどこ?」。先月14日、在宅療養支援診療所「たかせクリニック」(東京都大田区)の高瀬義昌医師が、区内の男性(83)宅を初めて訪ねた。雑談しながら、処方薬をチェックする。ぜんそくや骨粗しょう症などの薬が10種類、1日3回飲むものもある。高瀬医師は「薬をちょっと調整した方がいいね。1日1回ぐらいに変えていきたいね」と話しかけ、男性の反応を確かめた。

 高齢者は臓器の機能低下に伴い、代謝や排せつといった生理機能も落ちる。肝臓や腎臓の機能が低下すると薬が代謝、排せつされにくくなり、血液中の薬物の濃度が上がる。つまり、若い世代と同じ量を飲むと「飲み過ぎ」のような状態になる。種類も優先順位を付けて必要性を見直すことや、食事や運動など生活習慣の見直しで減らすことができる。

 昨年度、厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)でも議論された。同省の資料によると、75歳以上の患者で10~14種類の薬を処方されたのは20・2%、15種類以上も7・1%に上った。「薬を6種類以上飲む高齢者は薬物有害事象が多い」「有害事象には意識障害、低血糖、肝機能障害が多い」などの研究結果もある。

 高瀬医師は約380人の訪問診療をしており、新しい患者では本人の同意を得ながら薬を見直す。この日の男性は、飲み薬から吸入薬への切り替えもして「2~3カ月で6種類ぐらいに減らせるだろう」と考える。1日に飲む回数も減らしていく。また、予防接種を勧めたり、介護サービスの利用状況を確認したりして、重症化の予防にも気を配る。

 複数の病気を持ち、複数の医療機関にかかると、高齢者が抱える問題の全体像も見えにくくなる。そこで処方状況などをチェックする薬剤師の役割が重要だ。

 日本老年薬学会は、高齢者の病気や体の状況を理解し、薬を減らすことを含めた処方の見直しや服薬支援を担う「認定薬剤師制度」を作った。来年秋には200~300人が最初の認定を受ける見込みだ。

 同学会理事を務める大井一弥・鈴鹿医療科学大教授(病態・治療学)は「高齢者が要介護状態になる原因の4分の1が骨折、転倒、衰弱だ。それらの背景には、薬で便秘や食欲不振になって外出しないことによる筋力低下など、多剤併用もあると考えられる。そのような要介護者を増やさないことを目指していきたい」と話す。

 ◇院内、チームで対応

 病院でも、薬を減らす取り組みが始まった。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)は9月、「ポリファーマシー(多剤併用)削減チーム」を作った。医師、薬剤師、看護師のほか栄養士、リハビリにかかわる言語聴覚士といった多職種のメンバーだ。5種類以上を服薬し、同じ薬効の薬の重複投与が2種類以上ある入院患者を対象に、週1回検討する。栄養士は「食物繊維を取ることで下剤を減らせないか」、言語聴覚士は「薬ののみ込みはどうか」などを提案する。

 8月末、脳梗塞(こうそく)の治療後、リハビリのため転院してきた80代の女性は、14種類の薬を1日9回に分けて服薬していた。腎機能の低下が進んでいたため利尿薬を中止し、認知症と判断されていた症状は脳梗塞によるものと分かったため認知症薬をやめた。約3週間で6種類、1日2回まで減らし、多剤併用が原因とみられる抑うつなどの症状も治まったという。入院中は経過観察を続け、この女性は11月上旬に順調に退院した。逆に、血圧の維持ができず、薬を元に戻した例もある。

 退院後は地域の薬局と連携する。近くの薬局向けの説明会を開くほか、どのような理由でどんな薬を減らしたのかという記録を「お薬手帳」に貼り、薬局に引き継いでいる。

 チームの溝神文博薬剤師は「胃の調子が悪いと『薬がほしい』と思う患者もいる。このため、患者にも多剤併用の問題点や薬を減らした理由を説明することが必要だ」と指摘する。

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