伝承童謡の「マザー・グース」でも歌われているように、昔から「子どもが増えると親は歯を失う」といわれてきたが、その科学的な根拠はなかった。そこで、Gabel氏らは今回、欧州27カ国およびイスラエルで実施されている大規模調査Survey of Health, Ageing, and Retirement in Europe(SHARE)のデータを用い、子どもの数と親の欠損歯数との関連について検討した。
解析対象は、第5回調査(2013年)の対象となった欧州14カ国およびイスラエルの50歳以上の男女3万4,843人(平均年齢67歳)。健康な人には通常、親知らずを含めて32本の歯があるが、対象者では平均10本の歯を欠損していた。
解析の結果、対象者が高齢になるほど欠損歯が増え、50~65歳の女性では平均6.7本、80歳以上の男性では平均19.3本を欠損していた。また、同じ性別の子どもを2人産んだ後に3人目を産んだ女性では、性別の異なる子どもが2人いる女性と比べて残っている歯の本数が平均4.27本少なかった。一方、男性では子どもの数による歯の欠損への影響は認められなかった。さらに、学歴が高い女性と比べて低い女性では残っている歯が少ない傾向も認められた。
この結果を踏まえ、Gabel氏らは「妊婦や育児中の女性をターゲットに口腔衛生の維持や歯の健康に良い栄養の摂取、定期的な歯科検診の受診を推進する取り組みを強化することが、合理的な戦略となるのではないか」と指摘している。
ただし、今回の研究は子どもを3人産んだことが原因で歯を失うという因果関係を証明したものではない。また、特定の家族構成である男女を対象としており、規模も比較的小さいため、Gabel氏らは慎重な解釈を求めている。さらに、女性の歯の欠損に影響する因子が妊娠関連のものなのか、あるいは育児に関連したものなのかについても、今後の研究で明らかにする必要があるとしている。