虫歯など歯科治療で局所麻酔を受け、容体が急変するケースが相次いでいる。2年前には、福岡県の歯科医院で2歳の女児が死亡。元院長が今年3月、業務上過失致死容疑で書類送検された。事例を紹介し、歯科医が救命救急を学ぶ大切さを説く手引をまとめた。
日本大松戸歯学部(千葉県)の学生時代、交通事故現場に遭遇した。車にはねられ血を流す男児を抱き寄せたが、弱まる脈を診ることしかできず、むなしさが残った。
「歯科医でも、緊急時に患者を救える技術を身に付けたい」。勤務医を経て、出身地の愛知県岡崎市で歯科医院を開いた後も、地元の病院に頼み込み、休業日や夜間に研修医の立場で救急医療に携わった。
歯科医の認識不足を感じたのは2000年。愛知県歯科医師会を通じたアンケートで、6割以上が患者の容体急変を経験しているのに、多くは「経過観察」の対応にとどめていたことを知った。
「患者を救う万全の備えをするのが私たちの義務なのに...」。危機感が募った。04年に日本救急医学会認定のインストラクターとなり、歯科医療関係者への講習会を開くようになった。
容体急変時には脈拍や血中酸素濃度を把握する必要があるが、歯科医の中にはできない人も多い。リスクを軽視せず、ためらうことなく救急車を呼ぶよう訴える。
救命救急への意識が高まれば「救える命は増える」と話す。68歳。啓発活動を少しでも長く続けたいと、今年から酒量を控えている。