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【北海道】入院進まず入所者7割感染 専門家「行政支援迅速に」 介護崩壊の老人保健施設

札幌市北区の介護老人保健施設「茨戸(ばらと)アカシアハイツ」で起きた新型コロナウイルスの集団感染では、病床逼迫(ひっぱく)を理由に市が陽性者を施設内で療養させる方針を取ったこともあり、入所者の7割にあたる71人が感染、施設内で11人が亡くなった。さらに職員の感染も相次ぎ、介護が十分できない状態に。専門家は「行政の支援にスピードが伴わないと介護崩壊が起きる」と指摘する。

 ▽「死を待つだけ」

 施設で最初の感染者が出たのは4月25日。一瞬で広がり、30日までにさらに40人以上が陽性になった。市保健所は5月1日から陽性者の隔離を実施、陰性だった入所者は1階に、陽性者は2階に集められた。ただ各居室の定員は元々2人か4人で、間仕切りや出入り口はカーテンで仕切られているだけ。1階でも陽性者が続出し、連日のように死者が出た。

 父親が入所する女性は、母親が電話で聞き取った父親の「もう死ぬのを待つだけ」との言葉にがくぜんとした。「父を早くどこかに移して」と施設に掛け合うも留め置かれ、発熱を繰り返すようになった5月下旬にようやく入院できた。

 ▽後手の対応

 施設で感染者が出始めた当時、市内複数の病院で院内感染が発生し病床が逼迫したことや病院では十分な介護を提供できないことから、市保健所は陽性者を施設内で療養させる方針を取った。施設の運営法人関係者は「本音では入院させたかったが、従わざるを得なかった」と苦しい胸の内を明かす。

 ただ、施設でできた処置は酸素供給や点滴ぐらいで、それも機器が足りず「誰に酸素を供給するか選ばないといけない状況だった。何もできずにみとりが続くのは心が折れた」(施設職員)という。

 この時期に看護スタッフ14人のうち10人が休職などで現場を離れた。市は5月初めに医師や看護師を送り込んだとするが「実際に態勢が整ったのは中旬以降。施設療養を求めるなら病院並みの人材や医療資材を早急に投入してほしかった」とこの職員は訴える。

 ▽介護崩壊

 施設には職員約60人がいたが、これまでに計21人が感染。半数が介護職員で、外部からの派遣が得られた医師や看護師以上に補充は難航した。運営法人は他にも特別養護老人ホームなどを経営するが「各施設ぎりぎりの人員」(法人関係者)で、内部での職員の融通は思うように進まなかった。一時は入所者の食事を1日2回に減らし、入浴介助を2週間以上提供できない状態が続いた。

 厚生労働省は5月4日、介護老人保健施設の入所者が感染した場合は原則入院と自治体に通知。市が調整して病院への搬送を始めたのは同12日だった。市保健所の三觜雄(みつはし・ゆう)所長は「対応が十分かと問われればうまくいかなかった面もあるかもしれない」と振り返った。

 北海道医療大の塚本容子(つかもと・ようこ)教授(公衆衛生学)は「市は高齢者の重症化リスクを加味してもっと早く関与すべきだった。介護業界は常に人手不足で、行政が支援体制を整えなければ全国どこの施設でも同じことが繰り返される」と指摘した。

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