新型コロナウイルス感染症の影響で、院内感染を恐れた患者の受診控えが広がり、多くの医療機関が経営に打撃を受けている。「経営難で閉鎖に追い込まれれば、地域医療が崩壊してしまう」という懸念や「健康への影響が心配だ」との声が上がる。一方で「ウィズコロナ」の時代に合った医療の在り方を模索する動きも出ている。
「外来も入院も、患者が約3割減っている。こんなことは初めて」。こう言って肩を落とすのは、福岡市内の急性期病院の院長。5月は数千万円の赤字になった。約300人いる職員には給料を払わないといけない。「ボーナスを例年通りの額で払うのは難しいかもしれない」と頭を抱える。
福岡県保険医協会が県内858の病院や診療所から回答を得た調査で約9割が、2~4月の外来患者数が前年同期比で「減った」と答えた。うち3分の1で「3割以上」落ち込んだという。「開店休業状態」といった声も寄せられている。
国の支援拡充を求める声もある。新型コロナの感染者を受け入れた福岡記念病院(福岡市早良区)では、多い時期には二十数人の感染者が入院した。一方で、他の患者は半減したという。患者数は徐々に増えつつあるが、先は見通せない。
重症や中等症の患者を受け入れた場合は診療報酬が3倍になるが、軽症者を受け入れた際の支援はそれに比べ手薄だ。上野高史院長は次の流行を見据え、「軽症でも多くの人手が必要で、病院の負担は大きい。財政面で相応の手当てを考えてほしい」と要望する。
経営に影響が出た医療機関などへの融資は、12日に成立した2020年度第2次補正予算で拡充された。ただ、「患者がいつ戻ってくるか分からず、借りても返す当てがない」との不安も聞かれる。
このまま受診控えの傾向が続けば、健康への影響が懸念される。福岡県医師会の稲光毅理事は「重大な病気の発見が遅れたり、慢性疾患が悪化したりする恐れがある」と指摘する。子どもの予防接種を控える動きもあるという。
医療問題に詳しいニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員は「感染への不安を軽減する仕組みが必要だ」と提起する。次の流行が予測できない中、三原主任研究員は「オンライン診療や予約制の導入はもちろん、少ない来院回数で治療が済むような工夫も求められる」と強調する。
感染予防のための環境整備には、多くの医療機関が取り組んでいる。稲光理事が院長を務める「いなみつこどもクリニック」(福岡市西区)では待合室のおもちゃや絵本を撤去し、椅子の配置にもゆとりを持たせた。時間ごとに予約を取り、付き添いは基本的に1人。待合室が「3密」にならないよう工夫する。
一方で福岡県内のある救急病院の院長は「コロナ禍でいい変化もあった」と明かす。緊急性の低い患者が救急外来を受診する「コンビニ受診」が激減した。手洗いやマスクの着用が徹底されたことで、他の感染症の受診も減っているそうだ。
この救急病院も経営は厳しく、医療機器やベッドの買い替えを先延ばしして何とかやっている。院長は「これからはオンライン診療に力を入れて令和型の医療を確立し、地域に貢献したい」と力を込める。