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「なぜ顔は前を向いている?」生物進化を"口"の発達から考えてみた(後編) 「食う」機能のみならず、審美的効果も

ごはんをお腹いっぱい食べたい!——太古の昔から、生物は命をつなぐエネルギーの吸収が最重要課題でした。膜を通して吸収するより効率良い吸収方法、つまり体の前端に取り入れ口を設けたのです。この時、「顔」の歴史は幕を開けたのでした。

 やがて、入れるばかりの穴は、咀嚼機能を獲得し、食性の変化とともに、「顔」として複雑に変化していきました。今回は、顔のオリジナル構造ともいえる口を中心に、「顔」のできる過程をみていきたいと思います。(前編はこちら)

 哺乳類では、歯が切歯・犬歯・前(小)臼歯・後(大)臼歯と機能ごとに分化した「異形歯性」のため、とくに臼歯によって「細かく噛み砕く」ことができるようになった。これは硬く繊維質の多い食物を消化しやすくする効果がある。

 その結果、食いちぎった硬い食物をゆっくり噛んで、唾液も混ぜて消化しやすくなった。つまり、エネルギー生産の能率がよくなったのだ。そのことが、体毛の発達と合わさって、体温を高く保ち、活発な行動や、寒冷環境で棲むことを可能にしたのである。

 さらに、歯と顎骨の間には、前述した歯根膜ができて、歯に加わる強い衝撃を吸収するとともに、神経分布が密になることで微妙な圧力を感じて、咀嚼力を調整している。自分の歯をそっと触ってみると、いかに歯根膜が敏感かわかる。

 ただし、哺乳類の歯は、乳歯から永久歯へと1回しか生え替わらない「二生歯性」となったので、歯は大事にしないといけなくなった。

 哺乳類がエネルギーの生産能率を高め、生存環境を広げることになった口の機能発達は、異形歯性のためばかりではない。歯と密接に連動する、ある構造が関与している。

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