抗酸化物質を豊富に含む緑色の葉野菜や色鮮やかな果物は体に良いことが知られているが、脳の健康にも良い影響を与える可能性のあることが新たな研究で示唆された。血液中に3種類の重要な抗酸化物質が含まれる量の多い人では、量が少ない人と比べて全ての原因による認知症の発症リスクが低いことが示されたという。米国立老化研究所(NIA)のMay Beydoun氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に5月4日発表された。
この研究でBeydoun氏らは、身体検査と聞き取り調査、抗酸化物質の血中濃度を測定する血液検査を受けた45~90歳の男女7,283人のデータを分析した。対象者は抗酸化物質の測定値が高い群、中程度の群、低い群の3群に分類された。追跡期間は平均16~17年間(最長26年間)で、血中濃度を測定した抗酸化物質は、ビタミンA、C、およびEと、カルテノイド類だった。
その結果、カルテノイド類のうちのルテインとゼアキサンチンの血中濃度が高い群では、これらの血中濃度が低い群と比べて認知症の発症リスクが低いことが示された。これらの抗酸化物質が1標準偏差(SD;平均値からのばらつきを表す指標)増えるごとに、認知症の発症リスクは7%低下していた。ルテインやゼアキサンチンは、ケールやホウレンソウなどの緑色の葉野菜やブロッコリー、エンドウ豆などに含まれている。
また、同じくカルテノイド類のβクリプトキサンチンについても、1SD増えるごとに認知症の発症リスクが14%低下することが示された。βクリプトキサンチンは、オレンジやパパイヤ、カキなどのオレンジ色の果物に含まれている。
しかし、抗酸化物質が認知症の発症リスクに与える影響は、教育や収入、身体活動といった因子を考慮して解析すると減弱した。このことからBeydoun氏らは、「これらの因子が、抗酸化物質と認知症発症の関連に関与している可能性がある」との見方を示している。
この研究に資金を提供したNIAのサイエンティフィック・ディレクターのLuigi Ferrucci氏は、「濃い緑色の葉野菜とオレンジ色の色素を含む果物を豊富に摂取する健康的な食事は、抗酸化サプリメント(以下、サプリ)の使用の有無にかかわらず認知症の発症リスクを低下させる可能性がある。それが今回の研究から分かった重要なポイントだ」と説明する。そして、「抗酸化物質と脳の健康の関連を証明するには、長期のランダム化比較試験を実施して、慎重に管理された量の抗酸化サプリの摂取により、その後の認知症の発症者数が抑制されるのかどうかを確認するよりほか方法はない」と付け加えている。
研究グループは、今回の研究は1回の血液検査のデータのみに基づくものであり、生涯にわたる抗酸化物質の濃度が反映されたものではないことにも留意する必要があるとしている。Ferrucci氏は、現状では、脳の健康のために1日にどの程度の抗酸化物質を食事やサプリから摂取すべきかについては明確になっていないことを指摘。「潜在的なリスク因子に加え、どのような食事や生活習慣が保護的要因となるかについて調べるには、健康な人を対象に、認知症発症について長期的に追跡する必要がある」と述べている。