大阪市生野区で聴覚支援学校に通っていた井出安優香(いで・あゆか)さん=当時(11)=が下校中にショベルカーの暴走に巻き込まれて死亡したとして、遺族が運転手側に計約6千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は27日、約3800万円の支払いを命じた。武田瑞佳(たけだ・みか)裁判長は、将来得られたはずの「逸失利益」の算出基準について全労働者の賃金平均(約497万円)の85%と判断した。
訴訟で遺族側は全労働者の賃金平均で算出するべきだと主張してきた。父の努(つとむ)さん(50)は判決後の記者会見で「裁判所は差別を認めたんだなと落胆した気持ちです」と悔しさをにじませた。
運転手側は「障害の影響で意思疎通や進学、就職が困難だった」として、この賃金平均の6割(約294万円)にとどまると反論していた。
判決は〇優香さんに「将来さまざまな就労可能性があった」としつつ、「労働能力が制限されうる程度の聴覚障害があったことは否定できない」と認定。一方、聴覚障害児の大学などへの進学率が上昇傾向にあることや、音声認識アプリの普及などテクノロジーの発達により、〇優香さんが将来就労したであろう時期には、現在よりも聴覚障害者の平均収入が高くなるとの予測も踏まえた。
事故は2018年2月、運転手がてんかん発作で意識を失って歩道を暴走し、〇優香さんを死亡させた他、4人にけがを負わせた。運転手は自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪などで懲役7年の実刑が19年3月に確定し、遺族は20年1月に提訴した。
運転手側は当初、将来収入は一般女性の賃金平均の4割とする算定額を主張。遺族を支援する聴覚障害者団体が「障害を理由にした差別は許さない」として撤回を求める計約10万人分の署名を地裁に提出する事態に発展した。その後、運転手側が増額した。