長野県の松本、諏訪地域で診療にあたる在宅医療専門の歯科医、伊東材祐(さいゆう)さん(48)が、口腔(こうくう)ケアの向上に役立てたいと「おとなの歯磨き」(フローラル出版)を出版した。正しい歯磨きで歯周病を防ぎ、健康に過ごせるようにとの願いを込めた。「誤嚥(ごえん)性肺炎などさまざまな病気を防ぐ口腔ケアが、高齢者の苦しみを緩和し、現役世代の医療費負担を軽減するヒントの一つだと実感している」と話す。【宮坂一則】
伊東さんは長野県出身。歯学部卒業後、大学病院の付属機関で歯周病、かみ合わせ、最先端義歯治療、歯内療法(歯の根の治療)などを学んだ。訪問歯科医として安曇野市と諏訪市に医院を開設して14年目になる。
「訪問診療専門の歯科医は県内ではまだまだ少ないと思いますし、認知度も低い」という伊東さん。取り組むきっかけは「しっかり患者さんとコミュニケーションを図ることで丁寧に診療し、高度な義歯治療を提供したい」との思いだった。
訪問診療は1人で歩いて歯科医院に行くことができない人が対象。伊東さんによると、主に介護施設や支援センターなどで、要介護高齢者や障がい者ら累計約7万人を治療してきたという。その経験から得た知見や具体例を「おとなの歯磨き」にまとめた。「大切な歯を守り、いつまでも自分の歯で食事を楽しめる健康生活を送るために、虫歯にも歯周病にもならない歯磨き方法を書きました」と話す。漫画やイラストを多用し、わかりやすく楽しく読める。
伊東さんは、診療外でも多くの口腔相談に乗ったり、セミナーを開催したりしている。セミナーの受講者は、若者からお年寄りまで累計約8000人という。
安曇野市の豊科公民館で5月24日にあったセミナーには、介護や医療施設の職員、歯科衛生士ら約20人が参加。高齢入所者向けの正しい歯磨き法などを学んだ。歯は硬めの歯ブラシ、歯茎は軟らかめの歯ブラシで磨くことや、縦磨きと横磨きを併用する病原細菌除去法など具体的な指導を受けた。
伊東さんは「私たちは『口は命の入り口』と言っています。高齢者も口の中がきちんとケアされて食事ができるようになると、心の健康を取り戻し、生きていることの尊厳を実感するようになってきます。人が生きていくうえで、お口の健康はそれほど重要なんです」と強調していた。
デイサービス施設勤務10年という安曇野市の女性介護職員(30)は「利用者のためにと参加したが、自分のための研修にもなりました。まず自分自身の口内健康を守りながら、利用者の健康を守っていきたい」と真剣に研修していた。
「おとなの歯磨き」はB6判、税込み1650円。