南海トラフ巨大地震などを想定し、災害による死者の身元確認を迅速化しようと、徳島大などのチームが、遺体の歯の写真を人工知能(AI)で解析し、照合に必要となる歯の特徴を記した「デンタルチャート」を自動作成する研究を始めた。作成に必要な時間を大幅に短縮でき、医師はもちろん、行方不明者を捜す家族らの負担軽減にもつながりそうだ。
遺体に損傷があった場合にも歯は生前の状態で残りやすいといい、日本歯科医師会によると、東日本大震災で身元確認をした死者約1万6千人のうち約8%は歯の情報で特定。現在はチャート作成に30~40分がかかっているが、AIが作成すれば数分で終わるという。
研究を呼びかけたのは徳島大の高野栄之(たかの・ひでゆき)専門研究員(歯科医師)。徳島県の被害想定によると、南海トラフ巨大地震による死者は徳島だけで最大約3万1千人。県内歯科医院の約7割が津波浸水想定区域に位置するといい、災害時に稼働できる歯科医の不足に加え、他県からの応援も届きにくいことが懸念される。
これまでの災害では各歯科医師会の要請に基づき、遺体安置所に歯科医が出向いて直接確認。歯の治療痕や欠損などの特徴を手作業でチャートにまとめており、現場で人手が必要だった。
開発中の方法では、歯の写真を送付してチャートを自動作成する。画像は被災地外でオンラインにより受け取ることを想定。歯科医以外が撮影した写真も使用可能で、被災地で歯科医が稼働できなくても身元確認が進められる。歯科医が写真と見比べて確認することで精度を担保する。
AI開発は大阪大の清野雄多(せいの・ゆうた)特任研究員が担当。東北大の鈴木敏彦(すずき・としひこ)准教授は生前のカルテ情報をタッチパネルで入力し、チャートと照合するアプリ開発などを担う。
本年度中にAIのプロトタイプを完成させ、徳島を被災地と仮定した実証実験を行う予定。
※南海トラフ巨大地震
東海の駿河湾から九州の日向灘沖にかけて、海底に延びる溝状の地形(トラフ)に沿って発生する地震。政府の地震調査委員会は今年1月現在で、マグニチュード8~9級の巨大地震が30年以内に起こる確率を70~80%と算出している。政府は2012年に最大32万3千人が死亡するとの想定を公表。防災対策の進展を受けて、現在見直しの議論を進めている。