記事一覧

「直美」が終わり「直産」の時代が到来?

2024年末には「直美」という言葉が少し流行しました。初期研修が終わってすぐに美容クリニック等に就職する先生方のことです。臨床医の仕事のハードさや、待遇の悪さに将来性が見いだせず、美容クリニックへの就職となったのだと思います。

 もっとも、年末から今年にかけて、大型の美容クリニックの倒産が相次ぎ、「直美叩き」もやや収まったようにも感じています。

 僕自身の現在は、臨床医業務が占める比率は2割程度なのですが、医師になった当初は臨床医オンリーでした。その頃には消化器内科、循環器内科などのいわゆる「ハイパー」な内科の先生や、何よりも外科の先生のフットワークの軽さや責任感に強い尊敬と憧れ、そして自分がそういう生き方をできないことへの少しの寂しさを持っていました。今でも自分の心の奥にあるそういった感情が浮かび上がってくることがあります。

 もちろん、現在の若手の先生にも同様の「ハイパー志向」を持っている方も多いだろうなぁとは思いますが、「直美」のように収入や、ライフ・ワークバランスを考える方が増えているのも間違いないことかなと思います。

「直産」、契約1年で終了し企業を転々とする医師も

 最近では「直産」という言葉も聞かれるようになりました。「直美」が女性名でないように「直産」も農産物ではありません。初期研修が終わってから産業医の道に直接入るルートのことです。このルートは昔から産業医科大学には正式にありました。彼/彼女らは在学中から産業衛生について学び、就職後は上級の産業医に教わりながら一人前の産業医として育っていきます。まだ産業医の世界に入って10年程度の僕なんかは彼/彼女らから見るとひよっこみたいなものです。

 最近、産業医科大学出身ではない方でも同様に初期研修直後に産業医になる方をちらほら見かけるようになってきました。彼/彼女らは、紹介会社経由などで専属産業医としてデビューします。確かに当直や夜間呼び出しはないですし、ライフ・ワークバランスも悪くはないのでしょう。ただ、中には産業保健の基本的なことも知らないままこの世界に入ってきて1年で契約終了となり、企業を転々とする方も見られます。さらには、そうやって有名企業の産業医をいくつもやってきた履歴書を武器にして独立開業する強者もいると聞きます。

 これは本人にとっても、また依頼する側の企業にとっても、何よりそこで働く労働者にとってもいい事態であるとは思えません。資格を取るための50時間の研修では産業医業務を専門に行うには十分ではないのです。もちろん、入職してから熱心に学ぶことでそこをクリアしていく「直産」の先生も多いとは思うのですが、そこまで甘くはないという声が実際現場で産業医の指導をしている方から聞こえてきます。

過去ログ