保険証廃止を12月2日に控え、デジタル対応を求められた障害者から憤りの声が上がっている。健常者を想定した機器への対応は困難で、前提となるマイナンバーカード取得にも苦慮する。政府は「誰一人取り残されない」デジタル化を掲げるが、手厚い対応は期待できず、患者から法曹界まで幅広く反発。障害者の家族や医療機関も負担増を懸念している。
▽覚えられず
「保険証を残す、この一点しかない」。6月16日、障害者や医療関係者らの29団体でつくる「『保険証をのこして』ネットワークふくおか」が福岡市で集会を開いた。
約140人の参加者を前に「軽度外傷性脳損傷患者・家族会」の山下(やました)いづみ代表は、高次脳機能障害がある患者は「記憶障害でIDやパスワードを覚えられない」と指摘。マイナンバーカードの利用は困難で、現行保険証の存続を訴えた。
同様の集会は神奈川や京都、沖縄など他府県でも行われている。また、昨年11月には日弁連が意見書を総務省やデジタル庁などに提出。同12月には全国保険医団体連合会が抗議声明を出した。
▽作らない
脳性まひで車いすを利用する埼玉県熊谷市の山崎和子(やまざき・かずこ)さん(68)は数年前、マイナカード申請の際、車いすのヘッドレストが写り込んだ顔写真は不適切として、証明写真用の椅子に座り、再撮影するよう求められた。
しかし、脳性まひで首から下は自由に動かせないため、普通の椅子では姿勢を維持できず、倒れてしまう。何度説明しても聞き入れられず「障害者差別だ。私は作らない」と決めた。
障害者団体などでつくる「障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会」(東京)によると、マイナ保険証の利用に対しても、脳性まひなどで体が勝手に動いてしまう不随意運動のため「首が震えて顔認証機能が使えない」「視覚障害で暗証番号を入力できない」などと、不満を訴える声が多数寄せられている。