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記憶力の強化・低下に呼吸パターンが関与の可能性

 兵庫医科大学は7月27日、呼吸中枢を操作して呼吸パターンをさまざまに変えると、記憶力が強化されたり、記憶の形成が妨げられて記憶力が低下したり、あるいは間違った形で記憶が作られてしまうことを発見したと発表した。この研究は、同大医学部生理学生体機能部門の中村望助教、古江秀昌主任教授、越久仁敬主任教授、自然科学研究機構生理学研究所の小林憲太准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」電子版に掲載されている。

 呼吸は、生命維持において必須な活動だ。その制御は無意識下に行われるだけでなく、意識的にもコントロールできる二重支配となっている。覚醒下での呼吸の役割の詳細については明らかになっていないが、近年、課題などを行っている最中の脳の状態(脳のオンライン状態)において、呼吸は重要な役割を果たすことが示唆されている。

 研究グループは先行研究により、ヒトの呼吸、特に息を吸う瞬間が課題を取り組んでいる途中で入り込むと、集中力・注意力を司る脳活動の低下とともに、記憶力が低下することを明らかにしている。これは、息を吸う瞬間が脳の情報処理のリセットに関与し、課題遂行の途中で入り込むと、情報処理がうまくいかなくなることが考えられる。そこで、今回の研究では、マウスを用いて、呼吸活動を直接コントロールすることで、記憶力に直接関わる記憶形成そのものに変化が生まれるか、また記憶力を自在に操ることができるかについて調べた。

日本における外国人材の活用

 厚生労働省が公表している「外国人雇用状況」の届出状況まとめでは、2021年
10月末時点での日本における外国人労働者数は1,727,221人で過去最高数を記
録しています。この増加傾向は、東日本大震災の翌年、2012年の約4,000人の
減少を除けば、2008年以降、基本的には右肩上がりを続けています。なかでも
急増しているのがベトナム人材で、これは2019年に日本とベトナム間で「特定
技能を有する外国人に係る制度の適正な運用のための基本的枠組みに関する協
力覚書」が交わされたのが理由です。2019年には401,326人だった日本就労中
のベトナム人材数が、2022年には462,384人にまで増加し、この数字は日本に
おける外国人労働者数第1位となっています。
 この背景には、国内における生産労働人口の減少、人手不足もありますが、
多様な人材が活躍するダイバーシティ経営を目指した外国人材の採用も要因に
挙げられます。特に高度な知識や能力を持った高度外国人材は、企業の生産性
向上やイノベーションの推進に貢献する存在として注目され、海外の新規事業
展開や日本人と異なる発想での新商品開発など、日本人社員にもカンフル剤と
なっています。経済産業省で紹介されている具体的な事例では、産業用特殊ポ
ンプの設計・製造・販売をおこなう本多機工株式会社が、2008年にグローバル
展開のためにチュニジア人を採用し、延べ14人の外国人材を採用。その結果、
海外ユーザーに現地語で対応が可能となり、きめ細かなアフターフォローが評
判となりました。さらに海外の新規顧客獲得や仲介業者・中間コストの削減に
も成功し、現在では海外売上比率が約6割にまで増加しています。またプラス
チック製品を扱うフルヤ工業株式会社は、長年に渡りベトナム人材を受け入れ
ていますが、2017年に国内で確保できなかった金型の技術者をベトナムから日
本に呼び寄せたことがエポックメイキングとなり、家族も日本に呼び寄せスキ
ルアップした結果、今では企画や開発に欠かすことのできない技術者へと成長
しています。
 さらに、最近では専門学校に通う外国人留学生の就職先を大学卒の留学生並
みへ方針を転換する動きもあり、日本における外国人材の多様な活用について
は、今後ますます広がりを見せると期待されています。

次世代の太陽電池

2023年5月24日、東京都と積水化学工業は、ペロブスカイト太陽電池の実用
化に向け、大田区森ヶ崎水再生センターにて実証実験の開始を発表しました。
下水道施設へのフィルム型ペロブスカイト太陽電池の導入は国内初であり、
国内最大級の実証実験となります。フィルム型ペロブスカイト太陽電池の特徴は、
軽くて柔軟で歪みに強い点にあります。現在主流のシリコン型太陽電池と比べ
重さは10分の1、厚さは100分の1程度で、薄いフィルム形状のため曲げること
も可能。ビルの壁面や耐荷重の小さい屋根、あるいは柱の側面や車体などの
曲面にも設置ができ、弱い光でも発電ができます。極薄のフィルムにペロブス
カイトと呼ばれる結晶構造の物質を塗ることで太陽光を電気に変える仕組で、
性能面においても現状のシリコン太陽電池に匹敵するエネルギー変換効率を
既に達成しています。量産化も容易で低コスト、さらにレアメタルを必要とし
ないため、次世代の太陽電池としての期待は大いに高まっています。
 国としても開発を後押ししており、岸田文雄首相は今年4月、当初の目標
だった2030年を待たずに実用化を目指す方針を打ち出しています。政府は2030
年度に電力全体の14~16%を太陽光発電で賄う方針を打ち出していますが、
2021年度の実績は8.3%で、10年足らずで倍近く伸ばさなくてはいけない状況
も後押しの背景となっています。さらに追い風となっているのが、経済安全保
障の面です。ペロブスカイトの主な原料はヨウ素で、日本はチリに次ぐ世界
2位の生産国です。ロシアのウクライナ侵攻や米中の対立などで原材料のサプ
ライチェーンの強化が課題となる中、原料を国内で調達できることも経済安全
保障上、大きな意味を持っています。太陽光発電に適した平らな土地が少ない
日本にとっては、このペロブスカイト太陽電池の重要性は今後さらに高まって
いくものと思われます。

一時の減量も無駄でない?

ダイエット後にリバウンドしても減量は無駄ではなく、健康効果は一定期間持続するとした研究結果を米国心臓協会(AHA)が発表した。

 集中的な減量プログラムの効果を調べた124の研究を統合した。平均51歳の5万人以上が対象となり、平均の体格指数(BMI)は「肥満」に当たる33。期間中2~5キロの減量ができていた。

 その結果、血圧やコレステロール、血糖などの数値は低下し、それがプログラムの終了から少なくとも5年間は持続することが分かった。

 ただし、効果は体重が戻るにつれて減少。5年以上追跡した研究は乏しく、最終的に心臓病や2型糖尿病を予防できたかどうかは不確かだった。

世界人口白書2023

UNFPA(国連人口基金)が今年4月に発表した「世界人口白書2023」によると
インドの人口が中国を抜いて世界一となる見通しです。今年半ば時点でインド
の人口が中国を290万人上回り、14億2860万人となる予測が立っています。この
背景には中国が1979年から30年以上に渡り実施した「一人っ子政策」により、
急速な少子化が進んだことが要因だと考えられています。白書によると2023年の
世界人口は80億4500万人となり、昨年に比べ7600万人の増加予測で、2023年の
日本の人口は、昨年に比べ230万人の減少で1億2330万人、世界第12位となって
います。
 世界の人口は約70億人と教科書で覚えた方も多いかと思いますが、いまや
世界の人口は増加の一途を辿っており、予測では2030年には85億人、2050年に
は97億人、2080年代には104億人とピークを迎え、2100年まで同水準で推移す
ると推定されています。さらに予測では、2050年までの世界人口増加の大半は
コンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、
フィリピン、タンザニアの8カ国に集中し、一方、20%以上の人口減少に直面
するのがブルガリア、ラトビア、リトアニア、セルビア、ウクライナとされて
います。やっと少子化対策に本腰を入れ始めた日本においては、その着実な取
り組みに期待したいと思います。

なぜ人は「つい食べ過ぎてしまう」のか?

「おいしい」には“意味”がある
 ダイエット中に「つい」一口食べたら、止まらなくなってしまった。

 好きなお菓子をつまみながらテレビを見ていたら、「つい」大量に食べてしまっていた。

 こうした、おいしくて食べ過ぎてしたという経験は、だれでも身に覚えがあることではないだろうか。どうして「つい、つい、食べすぎてしまう」をやってしまうのだろうか。

 その謎を考える前に、そもそも「おいしい」と感じること、その正体について述べたい。

 おいしさとは、食べ物を食べたときの「快感」だ。私たちは食べないと生きていけない。そこで、食べることに快感がもたらされることで、食欲がわくようにできているのである。私たちは体に必要なものは本能的においしく感じる。それを識別する役割を担っているのが味覚である。

 味覚は「甘味」「塩味」「旨味」「酸味」「苦味」で構成されており、このうち、甘味、塩味、旨味は、おいしく感じる。

 甘味はエネルギー源の糖、塩味は生体調節などに必要なミネラル、旨味はたんぱく質のもとになるアミノ酸や核酸に由来し、人体に必要な栄養素の存在を知らせるシグナルになっている。

「本能的なおししさ」と「経験的なおいしさ」
 一方、腐ったものは酸っぱくなり、毒のあるものは苦いものが多いため、酸味は腐敗を、苦味は毒素の存在を知らせる味だ。

 そのため、生まれたばかりの赤ちゃんでも甘味や旨味を口に入れると気持ちよさそうな表情になり、苦味や酸味は嫌がる。

 やがて食経験を重ねると、味覚は発達し、苦味や酸味を受け入れるようになる。大人になって苦いコーヒーやビールがおいしくなるなど、食経験を重ねることで感じるのが経験的なおいしさだ。

 このようにおいしさは、本能的なおいしさと経験的なおいしさに大別される。経験的なおいしさは、人それぞれで基準が異なるが、本能的なおいしさは生まれながらに感じる共通なものである。

 さて、味覚だけをとっても、「おいしさ」は、複雑なことがわかるが、味覚以外にもさらに多くの要因がからんでくる。

香りは食欲を制する!
 食欲をそそる、おいしさをもたらす要因には、味以外にも、においなど食べ物に由来するものはもちろん、食べる人の体調や食べるときの環境、食文化の背景など、多くのものがある。おいしさの要因には実に多くのものがあり、実際はかなり複雑な感覚といえるだろう。

 そのなかでも、甘い香りの果物、香ばしい香りのトーストなど、香りは味や食感などとともにおいしさの重要な要素だ。ポテトチップスやスナック菓子につい手が伸びるのも、香りが大きく絡んでいるのだ。

技術の進化が目覚ましい、フレーバーのすごい力!
 そういった食品に重要な香りや風味を与えているのがフレーバー(食品香料)だ。フレーバーは、調理や加工で薄れた香りを補い、食材由来の好ましくない臭いをマスキングする役割を担う。さらに、食品に新たな風味を加えるために添加される場合も多い。

 近年は技術の進歩によって、より本物に近い自然な香りのするフレーバーや、味と一体となっておいしさを生み出すフレーバーなどが開発されている。フレーバーは、食品の香りを再現するようにつくられており、味わう人の想像力をかきたて、食品のおいしさを引き立てている。
 
 マクロバイオティックのクッキングスクールなどを行っている「日本CI協会」で講演した際に、果汁含量の異なる2種類の果実飲料の官能試験を行い、香りがおいしさに及ぼす影響を評価してもらった。

 官能試験とは、人の感覚を使って物の特性を評価することで、試料の違いを評価することもあれば、好ましさを調査するために行われることもある。品評会や新商品の開発、市場テストなどさまざまな用途で使われる試験だ。

 試料の果実飲料は、どこのスーパーやコンビニでも売られている、よく知られている2製品を用いた。白い紙コップに入れて並べられると製品の区別はつかない。果実味をどちらで強く感じるか、色や味、香りなどどちらが好ましいかを評価してもらった。


2つの飲料の果実味、色や味、香りの比較

 実際は、Aが果汁25%、Bが果汁40%であった。だが結果は、色や香りの好ましさについては大差がなく、果実味の感じ方にも差がなかった。果実味や味の好ましさを感じる人の数は、果汁の濃度が低い方にむしろ多かったことが興味深い。

 また、フレーバーの加えていない果実飲料を25%に薄めたものも試してもらうと、果実味はあまり感じられないという人がほとんどだった。

 香りは味覚を操っているといっても過言ではないほど、おいしさに大きな影響を及ぼしていることを実感することができた。

 しかし、いくら「味」や「香り」が良くても、永遠に食べ続けることはできない。では、この「食欲」とは、どのようなしくみでコントロールされているのだろうか?

食行動のカギを握るホルモン「レプチン」
 生命を維持するためには、エネルギー源になる栄養素を摂取しなければならず、そのための食行動をコントロールしているのが食欲である。

 脳のなかの間脳にある視床下部には、摂食中枢や満腹中枢があり、摂食を調節している。ここは自律神経系の中枢で、体温や睡眠など、生命維持に重要な機能を制御しているところだ。

 脳にはホルモンなどを介して体内の栄養状態が伝えられ、栄養素が不足していれば、脳の摂食中枢が作用し、空腹を感じる。一方、十分に栄養素が摂取できれば満腹感を感じ、食べるのをやめる。

 体重は摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスの調節の情報で、体重を一定に保つことで、エネルギーのバランスを維持することができる。もし、食欲によるコントロールがなかったら、まったくお腹がすかず、やせ細っていくか、食べても食べても満腹にならず、体重が増え続けることになる。

 肥満や糖尿病の病態を解明する研究には、食欲を抑制できず体重や体脂肪が増加した肥満マウスが使われている。そのマウスでは「レプチン」という食欲を抑制するホルモンがはたらかないようになっている。

 正常マウスに比べて明らかに巨大な肥満マウスの様子を見ると、普段当たり前に感じている満腹や空腹が、生体にとって重要な意味があることを認識させられる。また、肥満状態の人を調べると、摂食は必ずしも抑制されておらず、レプチンが効きにくくなるという現象が起きていることが知られる。

食べ過ぎを防ぐには「脳をだます」!?
 おいしさは口や舌で感じるのではなく、脳で感じている。味覚や嗅覚、視覚、触覚、聴覚の五感をフルに活用して、食べ物の情報を脳に伝えている。では、食べすぎを防ぐために効果的な方法はあるのか?

 前述の通り、脳はおいしさを覚えており、おいしさは食べるという行動を促す。おいしさは食欲を引き起こし、さらに食欲が食行動を支えているのである。

 また、もしも何かを食べた後に下痢や吐き気など不快な思いをすると、その食べ物が嫌いになり、食べなくなることもある。内臓の不快感と味覚の情報が脳の中で合わさって、先天的に好きな甘い味でも嫌いになったりする。

 このような後天的な味覚の学習には脳の扁桃体の機能が関わる。偏桃体は味覚をはじめ、嗅覚や視覚などあらゆる五感の情報が集まるところで、「快」「不快」「好き」「嫌い」などの価値を判断している。内臓の感覚情報も集まってくるので、偏桃体の中でそれらの情報が処理され、その味を嫌うように記憶づけられている。

 また、味は同じでも、色が違うだけで食べ物はおいしそうに見えたり、まずそうに見えたりする。一般的に赤やオレンジ色など暖色系の色はおいしそうに感じ、青や紫色など寒色系の色はあまり感じない。

 色は、食欲をコントロールする手段かもしれない。

 また、実験マウスのところで述べた、食欲を抑える「レプチン」のメカニズムと、それに関わる酵素などの研究が進んでいる。将来的には、そのメカニズムを利用して食欲をコントロールできるのではないだろうか。

   ◇   

 さて、おいしさと食欲の関係ついて概観してみました。さまざまな味や味覚にあふれ、彩り豊かな食べ物が揃うお正月。青く寒々しいおせちも、不快な思い出いっぱいのお正月もありえないから、おいしいものをがまんするのは難しそうです。「1年のエネルギー源になる栄養素を摂取」と考えて、お正月はおいしいものを食べますか!

少量飲酒継続または飲酒量減量で認知症リスク低下

韓国国民健康保険データベースに登録された393万3382例(平均年齢55.0歳、男性51.8%)のデータを用いて、飲酒量の変化とあらゆる原因による認知症、アルツハイマー病(AD)および血管性認知症(VaD)の新規発症との関連を後ろ向きコホート研究で検討。対象者を飲酒量で4段階に分類し(なし、少量、中等量、大量)、2009-11年の摂取量の変化に基づき非飲酒、断酒、飲酒量減少、飲酒量継続、飲酒量増加に分類した。追跡期間は平均6.3±0.7年だった。

 その結果、非飲酒継続に比べ、少量継続(調整後ハザード比0.79、95%CI 0.77-0.81)および中等量継続(同0.83、0.79-0.88)であらゆる原因による認知症リスクが低下し、大量継続では上昇した(同1.08、1.03-1.12)。このほか、飲酒量継続に比べ、大量から中等量への減量(同0.92、0.86-0.99)および少量飲酒の開始(同0.93、0.90-0.96)であらゆる原因による認知症リスクが低下し、飲酒量増加および断酒では上昇した。ADとVaDでもほぼ同じ傾向が認められた。

電気自動車導入

 2023年は、タクシーの電気自動車導入が一気に加速し、タクシーがEV普及の
起爆剤になりそうです。昨年12月、タクシー配車アプリ「GO」などを運営する
モビリティテクノロジーズ(MoT)は、「タクシー産業GX(グリーントランスフォー
メーション)プロジェクト」について記者会見を開き、タクシーの電気自動車導入・
運用支援を発表しました。MoTが提供するのはトヨタ自動車の「bZ4X」や
日産自動車の「リーフ」「アリア」などの電気自動車で、新エネルギー・産業技術
総合開発機構(NEDO)の助成を受け、手始めに2023年春までに700台を提供、
2031年までに最大2500台規模にまで拡大する予定でNEDOの助成を使って
提供する2500台を含め、2030年までに全国のタクシーの5台に1台をEV
タクシーに置き換えたいとしています。また、MoTは車両提供と合わせ、事業者の
営業所等に急速充電器400台、普通充電器2500台の計2900台の設置を発表。
タクシー事業者はMoTとリース契約を結び、また、充電量に応じたチャージ
サービス料を支払う仕組みです。
 計画では2027年までに二酸化炭素排出量年間3万トン削減を見込んでおり、
これは新たに東京ドーム800個分の森林を作るのと同等の削減効果となります。
運輸業界の二酸化炭素排出量は、全産業の中で約17%と大きな割合を占めて
いるだけに、日常的に使うタクシーのEV化は、利用者の意識を変え、自動車業界
に大きな変革をもたらす可能性があります。

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