鈴なりの柿の実が青く高い空に映えて、すっかり秋らしくなりました。
今回は、「一流シェフが考案した『流動食で作ったフルコース』のランチパーティー」について、皆様からいただいたご質問を中心にお話しします。
まず、メニューは、トマトのジュレ、雲丹と卵のスクランブル、つまみゆばのクーリ、帆立貝・小海老・ほうれん草のフラン、4種の有機野菜のピューレ、押し麦のリゾット、シャラン鴨のリエット、桃のクレメダンジェ、ハーブティー。
メニューの中で参加者に特に人気があったのは、1位:野菜のピューレ、2位:雲丹と卵のスクランブル、3位:トマトのジュレ、次点:帆立貝・小海老・ほうれん草のフラン。
シェフの選んだ有機野菜はもともと味が濃いのでしょうが、煮詰めることで一つ一つの野菜の味の特徴が強まったのでしょう。
流動食が怖いのは、形や色がシンプルなだけに、ごまかしがきかないところ。素材の善し悪し、調理法のちょっとした差が、美味しさや不味さを倍増するのです。
特に、抗がん剤の副作用などで流動食をとる機会の多いがん患者さんの反応は鋭くて、「医療現場の『食』は人間の尊厳の問題」と喝破しました。
「食べ物の持つエネルギーとともに作った人の温かい思いまで体のなかに入るような感覚。手術のあとにお祝いの意味をこめて、こういう食事を一口だけ食べられたら、病気と闘う気力が湧くよね」と笑い合い、別のお一人は、「御匙餐(おさじさん)」という素敵な名前をつけてくれました。
一方、保健所勤務の歯科の先生は、「高いレベルの嚥下食が必要な人は、さらに細かく個別の注意が必要になる」と指摘され、もうお一人の先生は、「病気や手術の経緯で必要な場合、流動食を使うのはできるだけ一時的に」と助言されていました。
今回は、医療関係者、がん患者、介護関係者、マスコミ関係者の計30名に集まっていただきました。
普段は接する機会のないさまざまな立場の医療職や患者さんが同じ食事を味わい、お互いの表情を見ながら、流動食について、それぞれの情報や思いなどを心を開いて喋り合う食卓。
とても初対面同志とは思えない楽しげな笑い声があちこちで響く食事の風景を見ながら、年齢を重ねても、健康に問題がある時にも、食事の楽しみを諦めずに済むよう、そして、よりよく生きるために、和やかにこういう情報交換をする機会があるように……と心から願うひとときでした。
コラムニスト 鈴木 百合子