発達障害の専門外来をうたい、東京や大阪などで展開する精神科クリニックが、日本精神神経学会が認めていない独自の見解を基に「効果が高い」と宣伝し、頭部を磁気で刺激する治療に誘導していることが16日、クリニック関係者や元患者らへの取材で分かった。患者側が治療費のために高額のローンを組むケースもあり、専門医から「不安を利用している」との批判が出ている。
この治療法は「経頭蓋磁気刺激治療(TMS)」と呼ばれる。日本精神神経学会の指針や専門家は、うつ病には一定の効果があるが、発達障害に有効との科学的根拠は乏しく、治療に用いるべきではないとしている。
クリニックは発達障害に有効だと宣伝し、カウンセリングや診察で「9割に効果がある根本治療で、効果は持続する」と強調。学会が指針で避けるよう求めている未成年にも勧めている。
元患者らによると、初診の脳波検査で「脳に混線がある」「発達障害のグレーゾーン」などと説明。治療費を一括で支払えない場合はローンを組ませるなどし、8~48回の施術(費用は最大で計約85万円)を契約させるケースが多い。クリニック関係者は「精神科の専門医はほぼいない。TMSの十分な研修も受けていない」と指摘する。
治療効果が得られないとして、このクリニックの患者がセカンドオピニオンを求めて受診に来ると複数の精神科医が証言している。
2022年春に小学生の息子のため計約60万円の治療を契約した千葉県の30代女性によると、TMSを数回受けた後、治療方針に不安を感じて中断。クリニックから未施術分の返金を受けた。
運営する医療法人は美容外科大手と関連するコンサルタント会社に業務委託している。同社幹部は取材に「自由意思で納得して契約してもらっており、問題ない。本当に効果がないなら事業として成り立たないはずだ」と話した。共同通信はクリニック側の見解を問うため医療法人などに質問状を送付したが、16日までに回答はなかった。