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訪問のきっかけ、ケアマネや家族からの要望も増

訪問に至るきっかけはケアマネジャーからの依頼が増え、また薬剤師による判断も増加傾向にある。東京都薬剤師会が調査・分析して取りまとめた「訪問薬剤管理業務事例集」から、このような傾向にあることがわかった。薬局・薬剤師の在宅方面への進出が指摘されるなか、多くの薬剤師は医師による指示を待っている場合が多い。ところが積極的に在宅訪問を推進している薬局においては、日常的な支援を行うケアマネジャーからの要望でスタートする事例が増加しており、多職種間の連携やコミュニケーションが重要であることが窺えるものとなっている。

薬剤師の介入により残薬状況の改善も

 都薬は在宅訪問薬剤管理指導業務実施薬局(1568薬局)を独自に集計し、訪問薬剤管理業務の実例などを収集しており、在宅現場で調剤上の工夫を行った場合や薬学的管理の実施により成果が得られた事例をデータ化している。今回の調査は報告のあった490例を分析し、傾向の変化などについて解説を付け加えている。
 患者の状況については「80歳以上90歳未満」が46.9%で最も多く、次いで「70歳以上80歳未満」23.6%となっており、70歳以上で全体の86%を占めている。しかしながら、60歳未満の割合も全体の5.6%存在しており、訪問薬剤管理業務は高齢者に留まらない実態も示唆された。主な疾病では「高血圧症」が216で最も多く、次いで「神経系疾患(アルツハイマー病を含む)」が152、以下「心疾患」120、「脳血管疾患」102、「筋骨格系の障害」97などとなっている。三大死因のひとつである「悪性新生物」は38例に留まっており、都薬は「入院治療が多いため」と分析しているほか、神経系疾患患者の大部分はアルツハイマー型認知症で「訪問薬剤管理指導業務の特徴」としている。

 調査した患者(n=463)のうち、そのほかで利用している訪問サービスの有無では「訪問介護のみ」173、「両方利用」126、「訪問看護のみ」89、「利用なし」75という結果となった。生活支援が必要な状態にも関わらず本人・家族以外の接触を拒否するケースも見られ、最小限のサービスに留めているという実態もあったという。療養の場所では「居宅」が87%で大半を占め、そのほかは「有料老人ホーム」7%、「サービス付き高齢者向け住宅」4%、「介護保険施設」2%だった。
 薬の管理について尋ねると患者自身が行っているケースが53%存在しており、居宅療養者に限れば61%が自ら薬を管理。残る4割で他者が薬を管理もしくは関与していることが浮き彫りとなった。薬剤師の介入による残薬状況の変化では、残薬の状況が「極めて不良」の割合が34%から1%にまで減少したほか、「やや不良」との判断を下された患者でも大幅な改善が見られることが明らかとなった。薬剤師の介入が在宅服薬コンプライアンス向上に大きく貢献できることが数値の上からも立証された格好だ。

患者宅への訪問手段「自動車」では路上駐車も多い状況

 薬剤師の訪問回数・訪問方法及び他職種との連携に関して尋ねた。1カ月の訪問回数では2回が48.2%でもっとも多く、都合4回までの訪問が全体の94.6%に達し、週に1回ほどの頻度が主流となっている。ただ、がん末期または中心静脈栄養法を実施している患者以外でも、調剤報酬で算定できない月5回以上の訪問を行っている実態も散見されている。
 訪問に要する時間では「5分以上10分未満」「10分以上15分未満」が全体の56.5%(27.9%、28.6%)を占めており、近隣の薬局で対応していることが多かった。しかし「30分以上」時間を要する場合も約8%程度見つかっており、在宅訪問を実施する薬局の偏りが窺えるものとなっている。
 患者宅への訪問手段では「自転車」が42%で最も多く「自家用車」36%「徒歩」18%だった。このうち自家用車を使用している薬局に駐車場所を聞くと「路上駐車」95%「近隣駐車場の利用」65%「駐車許可証取得」は35%に留まっており、駐車許可証の発行について、地元警察や公安との話し合いが引き続き行われることが期待される状況となっている。

 薬剤師が訪問するに至った経緯では、従来は医師からの指示が大多数を占めていたが、傾向の変化が読み取れる。「医師からの依頼」が50%で最も多いものの、「その他」も50%となっており、内訳では「ケアマネジャーからの依頼」22%、「家族からの依頼」10%、「薬剤師の判断」7%などと続く。都薬ではこの傾向について「24年改定の算定要件の変更が否定できないが、服薬管理への薬剤師の介入を求める者としては医師よりむしろ患者を世話する家族や介護関係者からの依頼が増えるのは自然であることの表れ」との見方を寄せており、薬剤師から提案した事例を踏まえて「積極的に医師に提案するべき」との意見も掲載している。
 都薬は「薬剤師はこれまで『薬を届けてくれる人』と思われていたが、他職種と連携しながら薬学的管理に尽力することにより、専門家として患者のQOLに寄与している」などと調査をまとめている。

ALS治療に2戦略 細胞移植と薬剤探索

運動神経が徐々に衰える筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った二つの治療戦略が研究されている。iPS細胞から神経細胞を作って移植する方法と、iPS細胞から病気を再現して、症状を改善させる薬剤を見つける方法だ。

 今回の京都大の研究では、一つ目の戦略を採用。運動神経細胞そのものではないが、神経のネットワーク活動を支える細胞を移植し、マウスの寿命延長に成功した。今後の細胞移植研究の進展が期待される。

 運動神経細胞そのものを移植できれば大きな機能回復につながると考えられているが、移植しても細胞が死んで機能しなかったとの報告もあり、適切な移植方法の開発は今後の課題とされる。

 二つ目の戦略では、ALS患者のiPS細胞から神経細胞を作り、実験室で病気を発症させて治療薬の候補を加え、経過を観察する。これまでに京都大の同じチームが「アナカルジン酸」という物質が治療薬の素材になり得ることを発見している。

ヘルスケアポイント、現金給付を推進へ/厚労省

田村憲久厚労相は4月16日の経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で、健康づくりに励む被保険者に、医療保険者の判断で金券などに交換できる「ヘルスケアポイント」を付与したり、現金を給付したりする取り組みを促進していく方針を明らかにした。厚労省はガイドラインや事例集の作成を通じて保険者が実施しやすい環境を整える方向で検討している。政府の産業競争力会議とも調整し、早期の実施をめざす。対象者を決める指標として、同省は合同会議に提出した資料で「特定健診の受診の有無」と「健診結果数値」を例示している。保険者に健康づくりのインセンティブを与えるため、現行の後期高齢者医療支援金の加算減算制度についても再検討する方針。同省は「関係者の意見や特定保健指導の効果検証等を踏まえ具体策を検討する」としている。
 安部晋三首相は「個人の予防、健康促進活動を促す仕組みの具体化について案をまとめていきたい」と述べ、関係大臣にとりまとめを指示した。

約1~4割がメタボ脱出 特定保健指導で/厚労省

20年度から始まった特定健診・保健指導の効果を検証していた厚労省のワーキンググループ(WG)は4月18日、中間報告をまとめた。それによると、特定健診を受診し、メタボ該当者・予備群とされた人のうち、特定保健指導の「積極的支援」を終了した男性の約2~3割、女性の約3~4割が1年後の特定健診で「メタボ非該当」と判定された。「動機付け支援」の終了者でも男性で約2~3割、女性で約1~2割がメタボから脱出した。特定保健指導の終了者は、指導を受けなかったり、中断した人に比べ、各年度、全ての性・年齢階級別で、腹囲、BMI、体重が大きく減少。血糖、血圧、脂質などの数値も改善していた。
 例えば腹囲は20年度と21年度の比較で、男性が約2.2センチ、女性は3.1センチ減少した。体重もこの間、男性で1.9キロ、女性で2.2キロ減少した。

で半固形に変わる栄養製剤

カネカは、ライフサイエンス分野の事業領域を拡大するため、流動食に進出する。摂取時には液体状だが、胃の中で半固形状になる粘度が変えられるタイプの流動食を開発し、利用しやすいように仕上げた。要介護者の増加にともない拡大基調にある流動食市場で、とくに経鼻経管向けで優位なポジションが得られると判断し、製品化を決めた。同社では今春、提携したテルモに販売を委託し、今月末から市場供給を行う。カネカでは、2016年に同流動食で売上高6億円を目指す。

 開発した流動食は、増粘剤用途で広く食品に使われているアルギン酸塩の酸性下でゲル化する特徴を応用。特殊技術を施すことにより、胃に入るとpHが低下し粘度が上昇して液状から半固形状になるよう設計している。

 流動食には、液状タイプと半固形タイプがあり、一長一短ある。液状タイプの場合、摂取しやすいが、食道を逆流して気管に入り、誤嚥下性肺炎や下痢を引き起こす可能性がある。一方、半固形タイプは誤嚥下性肺炎などの発症リスクは低減できるが、胃ろうからの流動食摂取と比べ管の細い経鼻経管による摂取は難しい。このため医療機関では、患者の容態に応じて使い分けしているのが現状。

 今回の流動食分野への市場進出は、経鼻経管からの摂取でも患者が負担なく栄養を摂取でき、胃の中で半固形に変わることで、医療機関のニーズに応えられるとし製品化を決めた。同社では今年4月に、開発から製品供給をカネカ、販売をテルモが担うという契約を結んでいる。テルモは、国内の半固形流動食で高いシェアを持ち、カネカによる製品を戦列に加えることになる。

 流動食市場は640億円規模(10年度分析)と推定され年率10%前後で成長しており、競争力ある製品として育成していく。

食生活改善で認知症予防、久山町での疫学調査解析

認知症の予防に有効な食事パターンがある――。九州大が福岡県久山町で進める疫学調査「久山町研究」の解析から明らかになってきた。解析した九大久山町研究室学術研究員の小沢未央さん(30)は「運動や食生活を改善することが認知症の予防に重要」と指摘する。

 久山町は福岡市の東に隣接し、人口8339人(1日現在)の町だ。住民の年齢、職業構成は半世紀前から全国平均とほとんど変わらない。このため日本人の標準的なデータが得られるとして九大は同町に研究室を設置し、1961年から生活習慣病の疫学調査を積み重ねてきた。疫学調査とは、地域や特定の集団を対象に、病気の発生と要因の関連性を、統計的に明らかにすることだ。

 ●米控えめで発症抑制

 認知症に関する調査を始めたのは85年。同研究室が60歳以上の高齢者1193人を対象に17年間収集したデータを解析したところ、高齢者が生涯に認知症になる確率は約55%に上った。

 認知症の症状が出ていない60~80歳の計1006人の食事内容を17年間、追跡調査。そのうち計271人が認知症になり(うちアルツハイマー病144人、脳血管性認知症88人)、小沢さんは米、パン、麺、芋類、大豆、みそなどの摂取量と認知症の発症の関連を調べた。

 その結果、野菜▽牛乳・乳製品▽大豆・大豆製品――などの摂取量が多く、米を控えめにする食事パターンが認知症の発症を抑えていることが判明した。さらに、これらの食品摂取量との関係から認知症予防の影響度を数値化した=表。

 米は「減らすとよい」との結果になったが、米だけで調べると認知症の発症と関連はなかった。小沢さんは「一定の摂取カロリーの中で、米の摂取量が多くなると、野菜などおかずの量が減り、発症の危険度が上がるのではないか」と分析する。

 ●乳製品の効果確認

 また、「増やすとよい」となった牛乳・乳製品の成分と摂取量を検証したところ、牛乳・乳製品に含まれるカルシウムやマグネシウムに予防効果があることが分かった。またアルツハイマー病の原因物質の一つと考えられている酸化代謝物「ホモシステイン酸」を下げる作用のあるビタミンB12が豊富に含まれ、アルツハイマー病を含む認知症の発症率が下がったという。

人間ドック新基準の波紋、「健康」と「病気」の境目は?

日本人間ドック学会などが4月に発表した健康診断の新しい「基準範囲」の衝撃は大きかった。すぐに健診に適用されるわけではないが、従来より「健康」の範囲が広がり、喜ぶ人もいれば「今まで薬を飲み続けたのは何だったの?」と戸惑う向きも。何が起き、どう受けとめればいいのか。新旧の基準作りに関わった医師らや、こうした問題に詳しい識者に聞いた。3回に分けて紹介する。【高木昭午】

 ◇高血圧やコレステロール 現行基準は「厳し過ぎ」

 学会と健康保険組合連合会が共同で示したのは、健診の検査27項目の新基準範囲。特に注目されたのが血圧とコレステロールだ。何しろ高血圧、高コレステロールの患者は全国で推定7000万人以上おり、関連医療費は3兆円を超す。

 現在の高血圧の診断基準は「最高血圧140以上か最低血圧90以上」だが、新範囲では最高147、最低94までは「健康」になる。LDL(悪玉)コレステロールも今の診断基準は「140以上」が脂質異常症だが、新範囲では男性は178まで、女性は45~64歳なら183まで、65歳以上は190までが「健康」だ。

 病気と健康の境目はそんなに簡単に変わるのか。まず学会学術委員長の山門実・三井記念病院総合健診センター特任顧問に尋ねた。「年を取ればコレステロールも血圧も自然に上がるのに、今の基準は考慮していない。加齢や男女差を反映した基準が必要だ」

 山門さんは新範囲を作った理由をこう説明した。未公表だったが、血圧の男女・年齢別の数値=表=もある。高齢者になるほど範囲は広がり、70代後半なら最高血圧160も範囲内だ。医師間に以前からあった、高齢者の血圧を「年齢+90」まで正常と見る考えに近い。

 新範囲はこう求めた。2011年度に全国200施設の人間ドックを受診した約150万人から、検査項目ごとに▽がんなどの病歴がない▽喫煙なし▽他の検査項目で異常なし――などを満たす「超健康人」を1万~1万5000人選び、性・年代で分ける。極端な値の排除のため上位2・5%と下位2・5%の検査値を捨て、残った値を基準範囲と定める。つまり同性、同年代で元気な人の「人並みの範囲」ということだ。

 「基準範囲で検査結果が年齢相応か、などが分かる。健診を繰り返し、結果が範囲を外れかけたら手を打つ“先制医療”をやりたい」と山門さん。

 ただし血圧やコレステロールの基準値は従来「値が高いと将来、脳卒中や梗塞(こうそく)になる確率が高まる」との考え方で作られてきた。今回のように「今、健康な人」を調べても将来の発症率は分からない。現行基準を作った日本高血圧学会と日本動脈硬化学会はこの点を強く批判する。

 山門さんも批判を認め「新範囲を使えるのは5、6年後。範囲におさまる人たちを追跡調査し発症の少なさを確認した後だ」と話す。それでも「今回は問題提起だ。現行基準は厳し過ぎて現場に合わない。例えばコレステロールだと元気な高齢女性の半数弱がひっかかる。人間ドックを受けても(元気なうちの治療代がかさみ)生涯医療費が減らない可能性がある。基準を再考すべきだ」と訴えている。

患者の医療情報、ネットで共有 道北地域、旭川の大規模5病院を核に

旭川赤十字病院など旭川市内の大規模5病院を核に、100を超える道北地域の中小規模医療機関をインターネットを介してつなぐ医療情報ネットワーク「たいせつ安心i(あい)医療ネットワーク」が、今年4月からスタートした。5病院が診療記録やコンピューター断層撮影装置(CT)をはじめとする画像情報などを提供することで、当該患者が他の医療機関にかかっても、診療経過を容易に知ることができるシステムだ。将来的には、道北全域のネットワーク化を目指している。

 同ネットは、旭川赤十字病院と地域医療機関が連携した「旭川クロスネット」を大幅に拡張したシステムで、ネットの中核となるのは旭川赤十字、旭川医大、市立旭川、旭川厚生の各病院と国立病院機構旭川医療センター。5病院は患者の同意を得た上で、診療記録と画像情報を提供する。さらに、富良野協会、留萌市立、深川市立の3病院は画像情報のみを登録する。

 一方、地域の医療機関は、患者の同意を得たうえでインターネット経由で情報を閲覧できる。5月28日現在、参加している地域医療機関は、旭川をはじめ稚内市、留萌市、留萌管内羽幌町、上川管内美瑛町など道北の病院28、診療所71、歯科医院12、処方箋薬局11、計122医療機関となっている。利用する際、第三者への情報漏えいを防ぐため外部からアクセスできない仕組み「仮想プライベートネットワーク(VPN)」を使っている。

 このシステムを使うと、患者は、例えばがんなど重い病気でかかりつけの診療所から大規模病院へ転院して治療を受け、再び診療所に通院することになっても、診療所の医師がそれまでの診療経過を踏まえた対応をとることができ、重複した検査を避けられるなどのメリットもある。

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