1年ほど前、Nさんが所属する病棟で決まった看護テーマです。「まずは口から」
ということになり、口腔ケアが強化されることになりました。
当時、学会発表で聞いた口腔ケアの話に、感動したばかりだったNさん。自ら
先頭に立って、口腔ケアの導入に取り組み始めたのです。
「経管中の患者さんの口腔清掃法は?」「ひどい口腔乾燥への対応はどうすれ
ばいい?」
同僚の看護師たちと話し合ってみると、みんな同じような悩みを抱えていまし
た。
さっそく看護手順を作り、勉強会を開いて手技や知識を統一。また、口腔ケア
の専用ワゴンを設けて、手順マニュアルからケア用品まで一式を備え付けました。
こうして新人からベテランまで、いつでも同じケアが可能になっていったのです。
口腔ケアの成果は、徐々にあらわれました。みんなが悩んでいた、口腔乾燥に
より口蓋にこびりついた痰の除去や、舌苔ケアによる口臭の軽減、また患者さん
の明るい表情、目の輝き。お見舞いに来られたご家族にも、笑顔がふえました。
「口がきれいになって心地いいという体験を何度もすると、患者さんが変わっ
てくるんです」。
Nさんは口腔ケアにより得られるメリットのなかでも、この点に注目。
「以前はなかなかケアさせてくれなかった患者さんが、自分から口を開けてく
れるようになったんです。心地よい体験がスタッフへの信頼感へつながっていく、
これは口腔ケア以外の治療やケアにもよい影響を与えます」
口腔ケアにより変わっていく患者さんの様子を、楽しそうにお話されるNさん。
“きれい”にする口腔ケアが定着してきた今、次の目標をお聞きしてみました。
「ひと口でもふた口でもいいから、口からおいしく食べていただきたい!」
間髪入れず、きっぱりと答えたNさん。摂食・嚥下機能向上に向けての新しい
計画が、すでに頭の中にはたくさん詰まっているようでした。