浜松医科大精神神経医学講座の森則夫教授らを中心とする研究グループは1月5日、厚生労働省内で記者会見を開き、自閉症の人の脳内では「セロトニン神経」が正常に働いていないとする研究結果を発表した。同日に米専門誌「Archives of General Psychiatry」に掲載された。辻井正次・中京大現代社会学部教授は会見で、「(脳内に)障害部位があることが明らかになったのは、今後、発達障害者の支援を実現していく意味ではとても大事な研究になる」などと述べた。
発表によると、薬物療法を受けたことのない自閉症の人20人と健常者20人の脳を頭部専用PET(陽電子放射断層撮影)スキャナーで撮影。分析したところ、自閉症の人の脳全体では、「セロトニン神経」の働きを調整するたんぱく質「セロトニン・トランスポーター」の密度が健常者と比べて低下しており、「セロトニン神経」が正常に働いていないことが分かったとしている。自閉症の人の脳内での障害が画像研究で明らかになったのははじめてだという。
また、脳部位の「帯状回」でセロトニン神経の働きが弱まると「相手の気持ちが分からない」との症状が、「視床」での働きが弱くなると同じ行動などを繰り返す「こだわり」の症状が強まるなど、症状の重症度と相関が見られたという。
森教授は会見で、自閉症に関連する遺伝子は複数あるとしたものの、「遺伝子がどのようにセロトニン・トランスポーターの異常につながっていくかはブラックボックスだ」と述べた。また、「遺伝子の関与があることは明らか。環境もまた遺伝子に作用する」と述べる一方、精神的な障害には誰でもなる可能性があるとして 「(自閉症は)『遺伝病』では決してない」と強調した。
また辻井教授は、2005年4月の発達障害者支援法の施行以来、発達障害は公的に認められたが、脳機能の障害は「何が障害なのか」を説明できない状況が続いたと指摘。「障害がありながらもきちんと可視化できず、いろんな意味での不利益を生じさせていた」と述べた。その上で、「障害部位が確かにあるということが(研究で)明らかになったことは、今後、発達障害者の支援を実現していく意味ではとても大事な研究になる」とした。