2月15日、厚生労働省の検討会が、職場で受動喫煙する機会を減らすことを事業者の義務とすべきとする報告書の骨子に合意しました。日本でも、禁煙の法的規制が一歩進みそうな勢いですが、今回は英国のアルコール規制の話を紹介します。
2月13日付の北海道新聞は、国民の過飲を抑えるため、英政府が4月からパブなどでのアルコール飲料の販売規制を強化すると伝えています。この規制は、健康被害や交通事故防止に加え、年間最大130億ポンド(約1兆8千億円)に上る関連の財政負担の軽減を狙ってのことだといいます。
4月からは、飲み放題や女性無料デーなどのサービス、開けた口に酒を流し込む「歯医者のいす」と呼ばれるゲームや早飲み競争も規制の対象となり、違反した店の経営者には、2万ポンドの罰金や6カ月以下の禁錮、営業免許停止が科せられる可能性があります。10月からは、身分証明書による客の年齢確認も義務化されるそうです。
NHS(英国民医療サービス)の調査によると、国民の4人に1人が「危険な飲酒習慣」を持ち、07年には86万3300人が飲酒が原因で病院に運ばれています。この数字は、02年比で7割増です。また、疾患や犯罪による財政負担は、政府推計で年80億~130億ポンドに及ぶそうです。
パブ文化という言葉があるほど伝統的にアルコールと“仲良し”の英国社会ですが、今回の規制は、アルコールのもたらす弊害の増加がもはや看過できない状況に至っていることを示しています。
このあたりは、わが国でも同じです。「酒は百薬の長」ということわざもあるように、歴史的にも、アルコールを目の敵にしてきたわけではありません。しかし、最近はその弊害が厳しく指摘される場面も増え、状況は英国と変わらなくなりつつあります。
例えば飲酒運転は、それ自体が犯罪であり許すべからざる行為です。また、小さいものまで含めれば飲酒に伴うトラブルは頻繁に生じており、医療機関の中でも少なからず起こっています。泥酔して救急車で来院し、暴れて医療者に悪態をついたり他の患者さんにも迷惑をかけたり…。私の勤務医時代には、そのような患者を嫌がって、他の患者さんが退院してしまったこともありました。
かといって、アルコールを帯びているとの理由で患者を放置したら非常に危ないことになりかねません。過飲で運ばれてきた患者に硬膜下血腫などが生じており、不幸にも亡くなってしまった後、医療過誤訴訟に発展したような事例もあります。
このようなアルコールの弊害に対し、日本でも対策は進みつつあります。アルコール飲料販売時の年齢確認はもちろん、大学によっては、新入生歓迎コンパなどでの一気飲みだけでなく、飲酒自体を禁止するケースも出てきています。
とはいえ、失敗に終わった米国の禁酒法の例からも分かるように、アルコールやタバコを全て禁止するのは簡単ではありません。ただ、医学生の急性アルコール中毒死を巡って訴訟になるような昨今ですから、厳しい過飲制限は時代の要請といっていいでしょう。
喫煙にせよ、飲酒にせよ、今まで許容されてきた嗜好品に対する規制が厳しくなっているのが時代の趨勢ですが、一方で、ストレスの多いこの時代をどうしのいでいくのかは、現代人にとっての大きな課題でもあります。過度の依存は、ワーカホリックや買い物依存症に代表されるように、日常行為の中にも生じ得ます。アディクション(依存)に陥らないよう気を付けつつ、上手なストレス解消法をどう見つけるかが重要な時代だといえそうです。
(院長コメント)
歯医者のイスとは考えたものです。歯科に関わる内容だと思ったら全く関係なくおもしろかったです。