今回訪ねたのは、精神科病棟に勤める看護師歴25年のSさん。現在入院中の礼子さん(仮名)のケアから、大切なことを学んだと話してくれました。
礼子さんが転院してきたのは半年前。常に頭を持ち上げようとし、首や頬が緊
張状態で口が開きませんでした。口腔内を清掃しようと試みたものの、食いしば
りもひどく、唇を上げ前歯の表面を磨くだけのケアが続いていたそうです。
先日、口腔ケアのセミナーに参加したSさん。口が開かない人へのマッサージ
などを学ぶ中、何より心に残ったのが講師の最後の言葉でした。
「大切なのは、とにかくあきらめずに続けること。すぐに変化がなくて当たり前
って思うといいわね。あせらず、ゆっくり続けましょう」
それを聞いたSさんは、礼子さんのことがパッと思い浮かんだといいます。
「少しケアをして変わらないからといって、口が開かない患者さんだとすぐに決
めつけていました。もしかして、口腔内を掃除できるかもしれないのに……」
翌朝からSさんは、礼子さんのかたくなった部分にあたたかいタオルを当てて
マッサージをしました。顔の周りの筋肉は少しずつ柔らかくなり、ケアの時間内
にマッサージできる範囲が次第に広がっていったそうです。そして、1週間後に
は歯ブラシの柄をかませて歯の裏を磨けるまでに。
"あせらず、ゆっくり。そしてあきらめずにケアをする”
そう決めたら、いつのまにか患者さんにリラックスして欲しいという優しい気
持ちでマッサージしていたというSさん。毎朝続けるうちに、患者さんの表情が
柔らかくなってきたのだと、嬉しそうに話してくれました。