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歯科情報のDB化目指す 災害時の身元確認に備え 「一刻も早く遺族へ」「大震災16年」

指紋やDNAと並んで身元の確認に有力な歯科情報をデータベース(DB)化し身元確認の新しい制度をつくろうと、歯を鑑定する警察歯科医らが取り組んでいる。1995年の阪神大震災でも多くの歯科医が身元確認に奔走したが、大半が手作業だった。今後の大規模災害などに備え、身元確認の迅速化を目指す。

 ▽金歯から特定

 95年1月25日、阪神大震災発生から約1週間後の王子剣道場=神戸市灘区。警察歯科医だった住谷道夫(すみたに・みちお)さん(69)は12人の遺体を調べていた。カルテやエックス線写真のない50代男性は1枚のスナップ写真が手掛かりに。遺体の前歯に金歯を発見、写真の中で笑う男性の金歯をルーペで見て同一と確認し同じ男性と断定した。

 阪神大震災では、兵庫県警察歯科医会の歯科医延べ159人が実質約10日間で68人の身元を明らかにした。住谷さんは「故人の尊厳を守るのが身元確認。一刻も早く遺族に返したかった」と振り返る。

 ▽PCで自動照合

 85年の日航ジャンボ機墜落事故で亡父が身元確認に尽力した群馬県高崎市の歯科医小菅栄子(こすげ・えいこ)さんは2007年、東北大の青木孝文(あおき・たかふみ)教授(情報工学)と協力し歯のエックス線写真を利用した身元確認システムを開発した。

 同事故で全員の身元判明に要した日数は約3カ月。大規模災害に備え手作業では膨大な時間がかかる危機感が開発の背景にある。

 生前に撮影した歯のエックス線写真と遺体の写真をパソコンで自動照合する仕組みで、現在、歯科情報をDB化する必要性を各地で訴えている。

 小菅さんは「昼間に大地震が起きデパートなどが倒壊すれば、身元確認は阪神大震災の時よりも困難。社会の財産として歯科情報の集約が必要だ」と強調した。

 ▽個人情報の壁

 生前の歯科情報のDB化へ向け、大きな課題は個人情報保護法の壁。日本歯科医師会の柳川忠広(やながわ・ただひろ)常務理事は「実現には法改正が必要」とした上で「死因究明制度も含め国民的理解が得られる形で議論したい」と話す。

 警察庁の死因究明制度の在り方を検討する研究会も10年7月の中間とりまとめで「身元確認迅速化のため、歯科所見のDB化の実現が望ましい」と記載、実現への機運が高まりつつある。

※警察歯科医

 警察と協力し遺体の身元確認に取り組む歯科医。歯の治療痕などを調べ、推定される人物の通う歯科医に照会、エックス線写真など歯科情報と照らし異同識別する。治療痕や歯型は万人不同で、歯は死後の変化が少ないため、焼死体でも身元が分かるケースが多い。520人が犠牲となった1985年の日航ジャンボ機墜落事故では、損傷した遺体の身元が歯の鑑定で特定されたケースも多く、歯科所見の重要性があらためて認識された。
2011年1月14日 提供:共同通信社