私たちがストレスを感じると、交感神経(意志とは無関係に内臓や血管の働きを支配する自律神経のうち、主に昼間に働く神経)が緊張して、全身がこわばります。そして、ストレスがのしかかりつづけると、就寝中に歯ぎしりをしたり、無意識のうちに歯を強く食いしばったりするのです。歯は頑丈にできているので、多少圧力がかかっても、欠けたり、折れたりすることはありません。ところが、歯ぎしりや歯の食いしばりがクセになると、歯と歯周組織に耐えがたいほどの圧力がかかり、歯のかみ合う部分が磨耗するのです。
そもそも私たちの歯は、食べ物をかみ砕くのが役割で、1日のうちに歯と歯が直接ぶつかる時間は、食事のときのかむ動きを含めてもわずか10分程度にすぎません。かむ力は人によって大きく違いますが、男性では60キロ、女性では40キロぐらいで、中には100キロを超える人もいます。それだけの負荷が長い時間のしかかったら、歯がダメージを受けるのも無理はないでしょう。
歯ぎしりや食いしばりで歯がすり減ると、歯のすきまに歯垢がたまりやすくなります。さらに、ストレスで自律神経の動きが乱れると、唾液の分泌量が減ってドライマウスになりがちです。唾液は虫歯の予防や歯の再生という重要な役割を担っています。歯垢の増加とドライマウスが積み重なれば、虫歯や歯周病にかかる危険性が一気に高まるでしょう。特にきをつけてほしいのは、無意識のうちに行う歯の食いしばり(専門的にはクレンチングという)です。歯ぎしりでは音がするのに対し、クレンチングでは歯をずらさないので音がしないという特徴があります。
このクレンチングを続けていると、最悪は、あごの関節に負担がかかって痛みが現れる顎関節症や、ものが飲み込みにくくなる嚥下障害を招くこともあります。クレンチングは自覚しづらいものですが、次のような特徴から自己診断できます。
①歯のかみ合う部分が磨耗して平らになっている
②あご関節(両耳の手前1㌢の部分)を押すと痛みが出る
③舌の両ふちに歯形の跡が残っている
④冷たい水が歯にしみる
⑤あごのエラ部分が張っていて、押すと痛い
⑥肩こりがする
わかさ 2010.7