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チームの力で“食べる力”を引き出す

回復期病棟に勤める看護師Kさんは、あるとき脳梗塞の男性患者さんを担当することに。その方は嚥下障害が見られ、食事はペースト食でした。しかし、そのペースト食をほとんど食べません。Kさんが心配して理由を尋ねても、「食べる気がしない」と小さな声で答えるだけです。じつはこの患者さんは脳梗塞で倒れてから、うつ状態になっており、精神的にも落ち込んでいたのでした。
“口から食べて、元気を出してほしい”と願うKさん。ある日、お見舞いに来た奥様と病室でお話をしていたときのことです。「元気だったときはお芋が好きで、コロッケならいくつでも食べたのに」と奥様がポツリといわれました。
「もしかしたら、コロッケなら食べてくれるかもしれない」
そう思ったKさんは、さっそく栄養士に相談。話を聞いた栄養士は、見た目はそのままで、嚥下しやすく調理した特製コロッケを作ってくれました。しかしこれだけでは、本当に安全に食べられるか不安があったKさん。今度は歯科へ相談に行きました。歯科では患者さんの入れ歯を調節してくれ、さらに動きが鈍っていた舌のストレッチ法を教えてくれました。
舌のストレッチを取り入れた口腔ケアを続けて数週間。嚥下テストをしてみると、食塊の送り込みや嚥下の機能が少し回復していたのです。これなら大丈夫と思ったKさんは、担当医師のもとへ。許可をもらって、栄養士が作った特製コロッケを患者さんに出してみました。
目の前にコロッケが出てきた瞬間、大きく目を開いた患者さん。食事介助をしていたKさんは、その表情を見て“これはいける!”と思ったそうです。患者さんがコロッケをゆっくり嚥下すると、その様子を見守っていた医師、栄養士、歯科衛生士から一斉に笑みがこぼれました。一人の患者さんを専門職が力を合わせ支えている。このときは心から、チーム連携の素晴らしさを実感したとKさんはいいます。