「虫歯は母親の口から子どもに感染する」--。鹿児島市内の産婦人科で毎月開かれている妊婦や乳児の母親らを対象とした虫歯予防の勉強会で、歯科医の講義を聞いた母親の何人かは「知らなかった」と驚き、不安げな表情を浮かべる。
かごしま口腔(こうくう)保健協会発行の「むし歯予防事典」によると、乳幼児の虫歯は母親から感染するケースがある。食べ物を母親が口移しで与えたり、母親の箸やスプーンで食べさせたりすることが原因という。
県歯科医師会学校歯科運営委員会副委員長の坪水良平さん(鹿児島市)は「子どもに感染させないためにも、出産前に早い段階で自分の虫歯を治し、出産後も口の中は清潔にしておくことが大切」と説く。
80歳までに20本以上の歯を残すことを目標にした「8020運動」も、妊産婦を含めた乳幼児期からの啓発が重要になる。県は、あらゆる機会を捉えて運動を推進している。県の依頼を受けた運動推進員が町内会など各地の様々な会合で虫歯予防法などを説明しており、その回数は年間800回にも上る。
市町村も歯科医師会などと連携し、育児相談や妊婦健診などで地道な啓発活動をしている。
5月下旬に鹿児島市保健所に育児相談に訪れた鈴木茉美さん(28)は、11か月の長女への食事の与え方や歯磨きの方法を学んだ。「参考になった。1人で子育てしていると分からないことばかりなので、相談してよかった」と喜ぶ。
4人の子どもを持つ主婦(36)も、妊婦健診で虫歯予防教育を受けて意識が高まった。「虫歯が発育に悪影響を及ぼすと聞き心配になった。ほかの病気と同様に考え、子どもたちを定期的に診てもらっている」と話した。
ただ、子どもの虫歯への親の関心は高いとは言えない。鹿児島市が独自に導入している1歳児から就学前の幼児までの4種類の歯科健診の受診率は60~70%台。坪水さんは「他の病気に比べ、虫歯への対応は遅れがち。乳児の虫歯を放置すれば永久歯の形成障害に結び付くこともあるので、定期健診などで予防を徹底してほしい」と呼びかけている。
2011年6月6日 提供:読売新聞