「のどが渇く」とは、水を飲みたい気持ちを表現しています。つまり、体が水分不足になっているサインです。ところで、実際にのどの渇きを感じているときに、鏡でのどの奥をのぞいてください。のどの粘膜はみずみずしくぬれていて、決して乾燥などしていません。もちろん、乾いた空気や話しすぎなどで、のどの粘膜が乾燥することはありますが、その時はまさにのどが乾燥して張り付くような感覚になり、水を飲みたいという欲求は出ないはずです。
のどの渇きを感じる仕組みはのどではなく、脳の一部である視床下部の中にあり、渇(かつ)中枢と呼びます。渇中枢は、血液の濃さを監視していて、血液が正常より濃くなると、水分不足と判定して、のどの渇きを作り出します。それで人は水を飲むので、血液は水分で薄められて、元に戻るのです。
というわけで、通常は、のどの渇きに従って水分を補給すれば、水分不足にならないはずです。ところが、現代人は、のどの渇きに一定程度慣れてしまった傾向があるようです。それは、例えば仕事中は多少のどの渇きを覚えても我慢して仕事を続ける、お風呂に入って渇きを感じても風呂から上がるまで水は飲まないなど、我慢する場面が意外と多いということです。
のどの渇きを我慢すると、水分不足を解消するために、渇中枢によりバゾプレッシンというホルモンが出て、腎臓でおしっこから水分を回収し始めます。その結果、色の濃いおしっこが出るよう
になるのです。もし、おしっこの色がいつもより濃いと気付いたら、体が水分不足になっている可能性があります。ですから、こまめな水分補給が現代人に必要だと思われます。
ところで、お風呂上がりに「のどが渇いた!」といってビールを飲み始める人が、たくさんいますね。でも、気をつけてください。ビールの冷たさや炭酸の泡がのどの粘膜を刺激して渇きを癒やしますが、水分補給としては極めて効率が悪いのです。なぜなら、ビールやお酒のアルコールはバゾプレッシンの分泌を抑え、おしっこの量を増やすので、飲んだ以上の水分を失う可能性があります。お風呂上がりにビールを飲んだら、眠る前に必ず真水を飲んで水分を補給してください。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)
毎日新聞社 10月23日(日) 配信