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食事がのどにつまったときの救急処置

何年か前の事です。ひとりのおじいさんが「急に呼吸がおかしくなった」とのことで、救急外来に運ばれて来ました。急いで気道を確保しようと、咽頭鏡を使ってのどの奥をのぞいたら、ちょうど気管の入り口のところに、ひと口サイズのお饅頭がぴったりとはまりこんでいました。

 人さし指と親指で輪を作って見て下さい。のどの奥、気管の入り口につまりやすいのはちょうどその大きさの食べ物です。具体的にはタコヤキや、煮物やカレーのお芋などです。それより小さいピーナッツ位のサイズのものは、のどにひっかからずに気管から気管支に入り込み、そこで詰まったりすることがあります。
 お年寄りは歯がなくなったり入れ歯だったりで、食べ物を小さく噛み砕くことができず、かなり大きい固まりのまま、飲み下さなければならないこともあります。
 健康な人ならば、食物を飲み込む時は、気管の入り口が自然に閉じて、食物が気管に入らないような仕組みになっていますが、脳血管障害の後遺症や神経の病気などで、のどに麻痺が起こると,この働きが低下して、気管に食べ物が入りやすくなります(これを誤嚥と呼びます)。また、食べ物やだ液が気管に入り込むと、異物を外に出そうとして激しい咳の反射が起こるものですが、この咳の反射が低下して、誤嚥を助長することがあります。
 食べ物をのどに詰めて窒息するのを防止するために、丸のみするとのどに詰まりそうな(タコヤキサイズの)物は、二つか三つに切り分けて、小さくしておいたほうがいいでしょう。固形物ではありませんが、粘りの強いお餅やとろろ芋なども、のどの奥で膜を作って呼吸の妨げとなることがありますから、注意が必要です。一度にあまりたくさんの食べ物を口に押し込まず、少しづつ食べさせて、ごっくんと飲み込んだのを確認してから、次ぎのひと口を食べさせてあげて下さい。一人で食べられる方でも、食事の最中は食べる様子をそれとなく観察しておいて下さい。

 さて、実際に食べ物、もしくは吐いたものを誤嚥した時にはどうすればよいでしょうか。赤ちゃんなら両足を持って逆さにして振ることもできますが、お年寄りにそんな事はできません。以下に、対処法を簡単に説明します。

① まず、呼吸をしているかどうか、のどや胸、腹部の動きで確かめましょう。咳き込んでいたり、ぜいぜい言っているようなら、とりあえずある程度は呼吸のための空気の通り道があるということです。何か言おうとしているようだが声が出ない、急に顔色が悪くなる、意識がなくなるなどの場合は、気道が閉塞している可能性が高く、のどに詰まった物を一刻でも早く取り出さなければなりません。
② 実際の現場では気が動転して、落ち着いて処置ができるとは限りませんから、まず呼吸の状態を確かめて、呼吸がおかしければすぐに救急車を呼ぶこと。二人いれば、一人が救急車に連絡して、もう一人が処置を行います。
③ もし呼吸をしていないようなら、口を開けさせて何か詰まっていないか確認する必要があります。いきなり人工呼吸を始めても、気管の入り口が塞がれていれば、空気は肺に入って行きません。
④ 口の中やのどに食べ物が詰まっているようなら、それを取り除く必要があります。指を使ってかき出す時は、できれば台所用のゴム手袋をしてから、噛みつかれないように、割り箸かスプーンなどに布を巻いたものを噛ませて、その間からかき出します。あまり奥まで指を突っ込むと、さらに嘔吐を誘発することもあるので気をつけましょう。
⑤ 電気掃除機に隙間用ノズルをつけて、強引に吸い出す方法や、後ろから抱えるようにして両手をみぞおちの所で組んで強く圧迫するハイムリック法などもありますが、救急法の講習を受けた経験のない方には難しいでしょう。機会があれば救急法の講習を受けておきませんか?最近運転免許を取った方は、自動車学校で習った救急法を思い出してください。
⑥ のどに詰まった物がうまく取れても、誤嚥の後は肺炎を起すことが多いので、早めに医師の診察を受けて下さい。
⑦ 認知症のある方は、時としてとんでもない物を口に入れて詰まらせてしまうことがあります。外れた入れ歯を飲み込んでしまった方や、紙おむつをちぎって食べてしまい、のどに詰めて窒息した患者さまもおられました。食べ物以外のものも十分に注意してください。

まとめ
 ●誤嚥・窒息は予防が第一
 ●たこやきサイズは特に危険
 ●のどに詰めたら、呼吸の状態をよく観察
 ●誤嚥の後は医師の診察を