歯周炎は一般的に慢性的経過をたどる疾患である。しかし、患者の内科的疾患の進行やその他の要因による体力低下などの全身的因子、あるいは口腔内局所環境や細菌学的因子の変化のために亜急性活動期(急性発作)に陥ることがある。もちろん、こうした急性期に特有な腫瘍形成に対し、腫瘍切開・排膿という外科処置を施すことは局所症状を改善するために必要な療法である。慢性歯周炎は嫌気性菌(群)が起因菌とされ、上述のような活動期病変では侵襲性歯周炎と同様、歯周組織内に細菌が侵入していると考えられている。そこで活動期病変と診断されれば、組織内の細菌に対応するため、とりわけ嫌気性菌に有効な抗菌薬の経口投与を選択することが望ましい。この際に使用する抗菌薬はポケット内の細菌にも作用することが望ましく、歯肉溝滲出液への移行性の高いテトラサイクリン系製剤が頻用されている。しかし、ポケット内の細菌に経口投与にだけ頼って対処しようとすると、多量の薬をしかも長期間にわたって使用しなければならず、こおため副作用や耐性菌の出現をみる危険性が高い。したがって、この方法ではポケット内の細菌に対しては、洗浄により局所の細菌数を減少させた後に必要最小限の薬物の局所投与で対処すべきであり、そのための薬物搬送システムが開発され、臨床応用されている。
ポケット内で有効濃度を1週間維持するためには、局所投与は経口投与の1/1000以下の薬物量ですむことが示されている。この薬物搬送システムを利用した局所薬物療法は、ポケット内の掻爬やルートプレーニングによる治療効果を凌駕するものでは決してない。すなわち、歯周治療の成功は、歯周基本治療を確実に実施することによりもたらされることを忘れてはならない。また逆に、ルートプレーニングまでの歯周基本治療が奏効しない難治性の場合には、経口投与を含めた薬物療法も行われることもある。