10月にオープンした東京都小金井市の日本歯科大口腔(こうくう)リハビリテーション多摩クリニック。特徴は、歯科医師2人が組むチームが毎日、高齢者を往診していることだ。このチームは二つあり、食事の内容や食事中の姿勢を指導している。
この日の訪問先は、東京都世田谷区の特別養護老人ホーム「フレンズホーム」。車いすに乗った女性(89)が診察用の部屋に入ってきた。認知症が進み、口を閉じて歯を食いしばっている。「一日3口を食べてもらうのがやっとです」と普段の様子を職員が伝える。
加齢や病気で食べ物を飲み込む力が弱くなると、食べかすなどで繁殖した細菌が誤って気道に流れ込み誤嚥(ごえん)性肺炎を発症しやすくなる。高齢者では命にかかわるケースも多い。予防するには、口の中を清潔に保ち、食事方法を工夫するのが大切だ。
「無理に口を開くと、口の周りが腫れてしまうんです」とスタッフが相談。「栄養が足りないと、腫れやすくなります」と歯科医師の佐々木力丸(ささき・りきまる)さんが答える。栄養状態の指標となる体重は、1カ月で1・3キロ減っていた。
佐々木さんがお年寄りの鼻から内視鏡を入れる。テレビ画面にのどの奥の状態が映し出される。施設のスタッフが、食べ物がのどを通って食道に落ちていく様子を見つめた。指導内容を理解してもらうための工夫だ。
この日の昼食を口からスプーンで入れると、のど元に達するのに時間がかかり、なかなか画面に映らない。だが、飲み込む瞬間、画面が真っ白になった。
「真っ白になるのはのどが十分に収縮しているからです。飲み込むことはできるので、もっとのどを流れやすいように、食べ物のやわらかさを調整しましょう」と診察を締めくくった。
また、食べやすくなるように、姿勢を調整するケースもある。高齢者の様子を見ながら「食事中の姿勢を安定させるため、頭を支えられるいすに座った方がいいですね」「60度まで背もたれを倒してみましょう」と指示すると、不在の担当者に伝えるために、スタッフが写真を撮影しメモを取っていた。