口腔ケアをしていたのは、後輩看護師でした。特に変わった様子はなく、ケア
用品は『モアブラシ』と『ウエットキーピング』でいつもと同じ。声のかけ方も、
病院で定めたマニュアルの通りです。
しかしよく観察してみると、あることに気づきました。ストレッチやマッサー
ジをする回数と場所が、Kさんとは違っていたのです。
Kさんは後輩看護師に、なぜ康子さんが嫌がらないのかを聞いてみました。
「気持ちいいところは重点的に、痛いところはササッとケアをしているからだと
思います。康子さんの反応を見ているうちに、どこが気持ちいいか、痛いかが分
かってきたんです」
この答えを聞いて、Kさんはドキッとしました。いつの間にか、マニュアル通
りにやることを優先していたと気づいたのです。
「看護師全員が一定レベルの口腔ケアを提供するためには、マニュアルが必須で
す。でも、それにとらわれすぎて患者さんを見ないのは本末転倒。患者さんを思
いやる気持ちが一番大切です」
これ以降Kさんは、口腔ケアのときに患者さんの様子をじっくり観察するよう
になりました。まだ康子さんに怒鳴られることもありますが、少しずつその回数
は減っているそうです。