鼻からに経管栄養や胃瘻(皮膚の上から胃に穴を開けて直接栄養が送れるようにすること)で管理している人でも嚥下性肺炎を起こしてきます。胃瘻を腸瘻に変えても肺炎の発生率を減らすことができなかったという報告もあります。嚥下性肺炎の発生機序はいまだに十分解明されているわけではありません。いえることは、食物を直接誤嚥したらすぐ肺炎になるわけではないし、食物を直接誤嚥しなくても肺炎になるということです。口腔や鼻腔、咽頭の分泌物に細菌が繁殖してそれが誤嚥されると肺炎になりやすいとか、胃ー食道逆流で消化液を含んだ食物を夜間誤嚥するなどのメカニズムが考えられています。いずれにせよ肺炎が発症するためには、生体の防御機構と、誤嚥物・細菌の相互作用が重要な役割をはたしています。体力があり気道や肺胞の粘膜丈夫とであれば肺炎になりにくく、脆弱であればすぐに発症してしまいます。嚥下性肺炎に関するいちばん大きな因子は「嚥下性肺炎の既往歴」であることがわかっています。つまり、一度嚥下性肺炎になると繰り返しやすいということです。健常人でも夜間を中心に咽頭粘液などを誤嚥していますが、気道の粘膜が繊毛運動で外へ上手に排泄しています。
ところが一度嚥下性肺炎になると気道や肺胞の粘膜が傷ついて、抵抗力がなくなり、誤嚥したものを排泄しにくくなるといわれています。これはとくに高齢者に顕著です。気道粘膜の感受性も低下してしまい、嚥下性肺炎にかかった人では誤嚥してもむせにくくなるというデータも出ています。むせないからといって決して安心はできない理由の一つです。