薬剤師によるフィジカルアセスメント(PA)が急速に進展するなか、服薬コンプライアンスの観点から嚥下状態を確認する試みが注目を集めつつある。歯科医師でウエルシア関東・調剤介護本部の教育担当を務める大西孝宣氏が社内認定制度を整えて昨秋から進めているもので、薬剤師が調剤した薬の確実な服用を確認する意味合いで患者の頸部聴診を実施。嚥下音の適切なアセスメントを通じ、潜在的な誤嚥発見や処方薬の剤型変更、嚥下困難支援・指導などでチーム医療での存在感を増すほか、大西氏は「薬剤師が在宅医療や臨床の現場に一歩を踏み込み、チーム医療で主体的に職能を発揮する上で有効」とも強調しており、一定の手応えを得て薬剤師のスキルとしての定着を目指す構えにある。
ドラッグストア勤務歯科医師が社内認定プログラムで推進
嚥下状態の確認は耳鼻咽喉科と歯科が専門領域にあたる。大西氏によれば特に歯科では「点数の算定項目もない当たり前の部分」といい、自ら歯科医師として指導することで昨秋ウエルシア関東所属の薬剤師を対象とした社内認定制度を設置。以後、月2回のペースで嚥下PAのスキル修得に向けた1年間の教育プログラムを進めている。
具体的には基礎知識の座学、相互実習を含む頸部聴診法と反復唾液嚥下テストなどの研修を経て、同社が訪問服薬指導を担当する介護老人福祉施設と連携し、昼食時の居住高齢者に対する嚥下音の体験実習に取り組む。その際、頸部片側を歯科医師である大西氏、もう片方を受講薬剤師が20~30秒の聴診を実施後に互いに聞き取った音の討議を行い、意見が相違した場合には喉頭部の左右機能障害なども考慮して測定部位を左右入れ替わり再度聴診と、聴診音の評価が一致するまで繰り返すことで聴診の精度と練度を高める手法をとる。
仮にPAで異常音と判断された際には、医師らチーム医療にフィードバックして適切な対処を促し、服薬時の誤嚥の可能性を踏まえて服用薬の粉剤からOD錠への剤型変更、ゼリー状オブラードなどの活用や、食事内容の改善といった提案を図ることで治療や介護の質的向上に寄与することになる。当然ながら嚥下音を1度や2度聞いただけでは正常かどうかといった評価は難しいが、大西氏は「歯科医師が指導のもと、同時に確認する聴診体験を積み重ねることで一定の判断が行えるスキルとして身に付けることは可能」という。