記事一覧

「通常は事前に眠気」 SAS、専門家指摘

ツアーバスの運転手河野化山(こうの・かざん)被告(45)が患っていたと診断された睡眠時無呼吸症候群(SAS)。交通事故を起こしたSAS患者の刑事裁判では、予兆なく瞬時に眠りに落ちた可能性があるとの理由で無罪を宣告された例もあるが、専門家は「事前に眠気をまったく感じずに意識を失うことは少ない」と指摘する。

 SASは、就寝時に呼吸が止まる状態を繰り返して熟睡できず、日中に慢性的な眠気や倦怠(けんたい)感に悩まされる睡眠障害。2003年、居眠り運転をした山陽新幹線の運転士が診断され、広く知られるようになった。

 SAS患者が車を衝突させ、3人にけがを負わせた事故では、大阪地裁が05年、急激に睡眠状態に陥った可能性があり、事故を予見できなかったとして無罪判決を言い渡し、そのまま確定した。

 名古屋地裁豊橋支部も08年、危険運転致死罪に問われた患者を同様に無罪としたが、名古屋高裁は09年、眠りに陥ったこと自体を否定し有罪と判断。最高裁も支持し懲役5年が確定した。

 睡眠医学が専門の内村直尚(うちむら・なおひさ)久留米大教授は「SAS患者は慢性的に眠気を感じている。てんかんとは違い、予兆なく突然意識をなくすことは考えにくい」と指摘する。一方、九州大の安藤真一(あんどう・しんいち)・睡眠時無呼吸センター長は「重症の場合、自覚なく脳が一瞬だけ眠ってしまうこともごくまれにある」としている。

 群馬県警によると、河野被告は逮捕後の調べに「事故の瞬間は覚えていない」「(事故直前は)うとうとしていた」と供述していた。

 政府は、一定の病気の影響で死亡事故を起こした場合、懲役15年以下の懲役とする新法案を4月に国会に提出、継続審議となっている。成立後、政令で指定する病気にSASを盛り込む見通しだ。