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口唇口蓋裂の中絶防げ 国際宣言の準備進める

唇や上顎の形成が不十分な状態で生まれる「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」は、適切な時期に手術を受ければ障害はほとんどなくなるとされる病気だが、発展途上国では正しい知識がなく、妊娠中の超音波検査で胎児に異常が分かった場合、中絶するケースが後を絶たない。こうした命の選別をなくそうと、日本口唇口蓋裂協会が、中絶撲滅を訴える国際宣言を準備している。

 同協会によると、赤ちゃんの顔は、胎児のときにさまざまな突起がくっついてできあがるが、口唇口蓋裂は唇や上顎がくっつかずに生まれてくる。日本では約500人に1人の割合で生まれる。遺伝のほか、母体を取り巻く環境など原因は複合的で、世界の患者数は1400万人と推定される。

 日本では、病気や治療について既に知られ、両親のサポート体制まで確立されているが、ベトナムなどアジアの発展途上国では、数年前から超音波診断装置が安くなったことで普及が進み、ようやく画像診断で出産前に口唇口蓋裂と分かるようになった。

 成長に応じて修復手術や言語訓練などを受ければ、健常な人と変わらない生活を送ることができるが、こうした国々では知識が広まらず、手術できる専門医も少ないため、親が中絶を選択してしまうことが問題となっている。

 約20年間、社会奉仕の一環として、アジアなどで手術をしてきた日本口唇口蓋裂協会理事の夏目長門(なつめ・ながと)愛知学院大教授は「先進国が輸出する画像診断装置がきっかけで命が失われている。今後、同じような問題が途上国で次々と起こるだろう」と危機感を募らせる。

 今年11月にはベトナムのハノイで、治療技術の交換や課題について話し合う国際口唇口蓋裂協会の総会が開かれ、日本協会は、中絶撲滅を訴える「ハノイ宣言」を発表する予定だ。

 宣言では、世界保健機関(WHO)や各国の法律などで中絶理由として口唇口蓋裂は認めないと明記するよう求めるほか、両親へのケアの充実を盛り込む。国際協会は、世界の医療専門家や非政府組織(NGO)団体がこの病気についての情報を共有し、治療につながるネットワークづくりに取り組んでいる。

 夏目教授は「治療のノウハウや世界的な倫理、ルールづくりが必要で、今回の宣言で世界に実態を知ってもらえたら」と話している。