政権復帰前夜の自民党に、企業・団体や政治団体から5億円を超える献金が流れ込んだ実態が2012年分政治資金収支報告書で明らかになった。衆院選公示前に駆け込みで5千万円を供出した日本医師連盟(日医連)は、自民党との「復縁」に向け選挙戦中に「陣中見舞い」攻勢もかけた。一足早く自民回帰を打ち出した日本歯科医師連盟(日歯連)は、前年の寄付額を大きく上回る選挙資金を寄せ、関係再強化へ足場を固めた。
▽決別の道筋
「流れから言えば政権与党だ」。自民党が大勝した12年衆院選から3日後の12月19日。日本医師会(日医)の横倉義武会長は記者会見で、13年7月の参院選に自民党公認で組織内候補を擁立する意向を示し、自民支持の姿勢を鮮明にした。衆院選公示前の11月27日に開いた会見では、民主党と距離を置く姿勢をにじませるにとどまっていた。
だが、前日の26日には日医の政治団体である日医連が、5千万円をひそかに自民党の政治資金団体「国民政治協会(国政協)」に献金していた。日医連は民主党政権下で自民党への寄付を凍結しており、国政協への支出は3年ぶりだった。
日医が民主党重視路線と決別する道筋を引いたのは、政権交代が確実視される中、自民党政権の医療政策に日医の意向を反映させるためにほかならない。横倉氏の予告通り参院選には自民党の比例代表に羽生田俊副会長(当時)を擁立。総力を挙げて25万近い票を集め、初当選させた。
▽要職ずらり
日医が衆院選を通じ、自民党の有力者へ個別に再接近を図った様子もうかがえる。日医連は衆院選期間中の12月5~15日に500万~50万円の「陣中見舞い」を計2150万円拠出。このうち1350万円を自民党候補18人に振り向けた。
内訳をみると、安倍晋三首相の選挙区支部が100万円を受けたほか、石破茂や菅義偉、甘利明、岸田文雄、田村憲久各氏ら後の安倍政権で要職を占めることになる顔ぶれがずらりと並ぶ。
ただ日医連は民主党でも医師出身の議員らには500万円ずつを寄付。解散前の11月9日には、小沢一郎氏率いる「国民の生活が第一」(現「生活の党」)側にも計2千万円を献金した。潤沢な資金を武器に、選挙後も医療政策をめぐる代弁者を幅広く確保する狙いがあったとみられる。
▽思惑結実
日本歯科医師会(日歯)は、日医と同じく与党時代の民主党を支援してきたが、13年参院選では日歯連として自民党候補を推薦する方針に転換。解散政局さなかの10月末には立場を鮮明にした。
国政協への献金は11年から再開。12年は前年実績の2千万円に積み増し、3千万円を11月8日に提供した。
参院選では、組織内から現職の石井みどり氏を比例代表で再選させたほか、神奈川選挙区に擁立した日歯連元理事長の島村大氏も議席を獲得。日医に先行して打ってきた自民回帰への布石は、参院選で思惑通りに結実した格好だ。
一方で、各党との結び付きを維持する姿勢は日医と変わらない。衆院選投開票2日前の12月14日に、自民党候補29人に計1750万円の「陣中見舞い」を出す一方、民主党や日本維新の会、みんなの党など5党向けにも計1930万円を配った。