健康な歯を失えば失うほど、胃がんや大腸がんで死亡する確率が高まりかねない―。九州歯科大(北九州市小倉北区)の調査で、こんな結果が出た。失った歯が4本以下の人より5本以上ある人の方が、消化器系のがんで死亡する確率は約2~3倍に上がる傾向などがみられるという。福岡県北部に在住し、1998年当時、80~81歳だった男女約800人を10年以上、追跡調査して判明した。「歯が少ないと、胃腸に過度に負担がかかるのが一因では」と調査チーム。口の中の健康を保てば、がんの予防にも一定の効果がある?
対象は98年当時、旧9市町村(北九州市戸畑区、宗像市、行橋市、豊前市、苅田町、築城町、勝山町、豊津町、新吉富村)に住んでいた17年生まれの男女計824人。まず体と口の健康状態をチェック。その後は数年に1回、本人や家族に聞き取りをしたり、居住地の自治体を通じて死亡や死因を確認したりし、現在も調査を続けている。
2010年の調査時点では、追跡できた697人のうち414人の死亡を確認し、うち死因ががんだったのは71人。内訳は肺がん16人▽肝臓がん13人▽胃がん12人▽大腸がん6人▽膵臓(すいぞう)がん4人―など。亡くなった人がそれぞれ1998年当時、永久歯28本のうち、入れ歯やインプラント(人工歯根)も含め、健康な歯を何本失っていたかを照合した。
飲酒や喫煙の有無など医学統計上の誤差も加味した結果、虫歯や歯周病で歯を1本失った人は、全部そろっていた人に比べ、胃がんや大腸がんなど消化器系がんで死亡する確率が6%高いと判明。比較的母数は少なかったが、失った歯が5~9本の人は0~4本の人に比べ、消化器系がんで死亡する確率は2・2倍、同じく10本以上の人は3・2倍だった。一方、脳卒中や心臓疾患で死亡した人は、健康な歯の数とのこうした“因果関係”はみられなかったという。
消化器系がんによる死亡は、がんで亡くなる人の6割を占める。調査チームを率いた同大の安細(あんさい)敏弘教授(予防歯科)は「歯を失うと、入れ歯やインプラントをしてもそしゃく力が落ち、栄養の摂取状態が悪くなることもあり得る」と分析。「日ごろの手入れと、歯科での定期チェックを怠らないで」と呼び掛ける。