ひとたび口腔ケアの自立が困難になったり、全身さらには口腔にも運動障害がみられるようになったりした場合、その様相は一変する。口腔機能の低下とともに口腔内の自浄作用が低下すると、残存した歯は食物残渣やバイオフィルムに覆われる。バイオフィルムを除去するために必要な上肢手指機能の低下、さらには認知機能の低下も認められるようになると、口腔内は容易に崩壊する。歯冠部が崩壊し放置された歯は、歯根を通じた病巣感染の原因にもなりうる。バイオフィルムは、細菌みずからが分泌した菌体外多糖を介して、歯や義歯に共凝集する。よって、歯の増加に従い口腔内の細菌数の増加が認められることが予想される。私たちは、要介護高齢者の唾液中の細菌数を新しく開発した細菌カウンターを用いて測定し、残存歯数との関連について検討した。その結果、現在歯の増加に伴い、唾液数の細菌数を多くもつ者が増加することがわかった。これらは、齲蝕や歯周病の原因ばかりでなく、時として、誤嚥性肺炎の引き金にもなる可能性も考えられる。歯の存在が誤嚥性肺炎発症などのリスクファクターにならないように徹底した口腔管理が必要となる。