内容の見直しが常に行われている保険診療。これまで自由診療だった治療法や、対象でなかった病気が、新たに健康保険などの公的医療保険の適用対象となり治療の可能性が広がることもある。有効に使いたい。
●高額で一度は断念
東京都内の男子大学生(22)は生まれつき永久歯が11本少なかった。10歳ごろ、虫歯治療のために撮ったX線写真で偶然判明した。それからは乳歯を温存しながら主治医と治療法を探った。ある病院では「抜歯してインプラントを入れる」との提案を受けたが、断念した。高価なインプラントが多数必要となり、治療費が200万~300万円に上るからだ。矯正治療で歯の隙間(すきま)を整理すれば治療法も広がるが、その当時は一般の歯列矯正と同様、保険は適用されなかった。
永久歯が足りない「先天欠如」は珍しくなく、およそ10人に1人にあるとされるが、多数の場合は珍しい。永久歯の本数が少ないと、かみ合わせなどに大きな問題を生じ、1本の歯にかかる負担が通常より大きいため、歯の寿命も短くなりやすい。見た目を気にして引っ込み思案になるなど、心理的な影響を受ける子どももいるという。
2012年度からは、先天的に永久歯が6本以上足りず、認可を受けた矯正専門歯科などで治療を受ける場合、原因となる病気の有無に関わらず矯正治療に保険が利くようになった。自己負担は3割で済む。小児の医療費を無償化している自治体では、その対象なら無料だ。
大学生は主治医から保険適用の話を聞き、1年前から矯正を開始。自己負担の総額は40万円を切る見込みだ。「親の負担が減ってよかった。保険が利かなければ今も『どうしたらいいだろう』と治療に踏み込めずにいたかもしれない」と話す。矯正治療後、空いた部分には保険診療で人工歯のブリッジをつけて、不足を補うつもりだ。
担当医で日本臨床矯正歯科医会の野村泰世専務理事は「保険適用になったことは一般歯科や保健所でも知らない人が多い。治療の機会を得られるよう、周知を図りたい」と話す。